「トゥガルのモチ(1)」(2020年07月22日)

中部ジャワ州トゥガルTegalの町は、パントゥラPanturaと呼ばれるジャワ島北岸街道がそ
のど真ん中を横切っている。横切っているとは言っても、西ジャワからやってくるパント
ゥラがブルブスBrebesを抜けてからトゥガルの町中に入ってきた後、町のど真ん中を北上
して港近くまで上り、そこからまた東に向きを変えてプマランPemalang⇒プカロガン
Pekalonganと進んで行くから、この町はパントゥラ街道によって分断されている印象だ。

ジャカルタで有名なワルテッ(Warteg=Warung Tegal)の看板が市内の街道沿いにまったく
見当たらないため、やはりジャカルタで至る所に掲げられているレストランPadangの看板
が西スマトラ州の町々で見当たらないことと同じ現象を昔感じたのだが、今ではパダンに
Masakan Padangの看板、トゥガルにWartegの看板を出すひとが出現しているそうだ。


このトゥガルの町に香茶teh wangiを飲む習慣が確立されている。茶を飲まないなら「オ
レはトゥガル人だ」などと言うなという話もあるくらいだ。地元民はトゥガルの独特な茶
の飲み方をテポチteh pociと言い、テポチをすることをモチmociと言う。

ちょっと大きめの茶色い焼き物の急須(ポチ)に、ちょっと濃いめに香茶を作り、やはり
同質の湯呑に氷砂糖を入れ、その上から急須の茶を注いで砂糖を溶かしながら飲むのがテ
ポチの作法だ。おまけに茶を注いだあと、かきまぜてはいけないという不文律がある。湯
呑に普通は氷砂糖を入れるが、たまたまそれが切れたら粉砂糖でもかまわない。ともかく、
湯呑には平常の量をはるかに超えた砂糖が入れられるのだ。かきまぜようものなら、液体
に溶け出る砂糖が大量になって、甘すぎて難渋する。濃い茶が作り出す苦みと熱い液体に
自然に溶け出る甘味のハーモニーこそが、テポチの真髄なのである。だから急須に注がれ
る湯は沸騰していなければならない。

おまけに急須は使ったあと、中を磨いて茶渋を落としてはならない。急須は古い物ほどう
まいテポチができるとトゥガル人は信じている。それは古い急須の内壁にこびりついた茶
渋が効果を発揮するとみんなが思っているためだ。15年物の急須などと言えば、愛好者
の垂涎を招くにちがいない。

香茶が持っている香、濃い茶の苦み、砂糖を溶かして甘くするに足る茶の熱さ。その四つ
の要素をトゥガル人はwasgitelと表現する。WAngi+panAS+leGI+kenThELつまり香熱甘濃が
その意味だ。nasgitelと呼ぶひともいるが、これはwangiが抜けている。ジャスミン茶の
香りは言わずもがなであり、消費者の手の及ばない部分でもあるから、人為操作で効果を
操ることが可能な部分だけを言っているのかもしれない。

地元民が飲食する場では、まず間違いなくテポチが登場する。町中の小さいワルンから大
型レストラン、道路沿いに出現するレセハンlesehanに至るまで、テポチが出て来ないと
いうことはまずない。アッマディヤニAhmad Yani、ディポヌゴロDiponegoro、DIパンジ
ャイタンPanjaitan、チョクロアミノトCokroaminotoなど市内の大型道路には毎夜、道路
脇にレセハンテントtenda lesehanが出現して、深夜2時半ごろまでテポチを楽しませて
くれる。[ 続く ]