「女王陛下のカユアロ茶(3)」(2020年08月19日)

給料日に月給が支給される時、オランダ人の管理人は作業員たちに賭博で遊ぶように勧め
た。そうしてほとんどの作業員がスッテンテンになる。「金がなきゃ生活できないから、
会社から前借だ。毎月そんなことが続いて借金がふくれあがる。借金があるから故郷に帰
るわけにいかない。故郷に持って帰る金がないのだから、帰る気持ちも起こらない。ルバ
ラン前にはワヤンクリwayang kulitやワヤンオランwayang orangが上演されて、里心が慰
められた。演者はみんな、農園で働いている者たちだ。オランダ人は利口だよ。

オランダ人が去った後は、農園作業員の慰安として野天映画が頻繁に上映された。たいて
いインドネシア映画だった。中には農作業教育映画もあったよ。」

何年かして、かれは監督人mandorに昇格した。監督人は鉄のボルトが植えこまれた木製の
杖を持つ。間違った方法で作業をしている茶摘み人があったら、その杖で茶摘み人の手を
打つのだ。

従業員は金銭による給料のほかに、食糧の現物支給を享受した。米・砂糖・塩魚・夜の明
り用の灯油・フライ用の油・緑豆・布・カユアロ茶などがひとりひとりに支給された。作
業員を集めることの困難な立地条件のために、経営者は作業員の減少をミニマイズするこ
とに腐心した。


今では、茶摘み人までもが第6ヌサンタラ農園会社の正社員になって、固定給を与えられ
ている。国有農園会社の正社員なのだから国家公務員なのだ。カユアロ農園の正規社員は
3千1百人を超える。管理職23人、警備責任者1人、公務員等級IB〜IID317人、
公務員等級IA2千8百人。更に日給臨時雇用者が470人ほどいて、年金受領者が2千
9百人。カユアロ農園で生計を立てている者の扶養者合計は7千人近い。

茶摘み作業員の給与システムは、固定給と歩合制が組み合わさったものだ。一日のノルマ
が32kgとされて固定給と米15kgが支給される。ノルマを超えた量に対してキロ当
たりのボーナスが与えられ、ほとんどの作業員はボーナス部分が固定給より大きい。

米の現物支給も、夫婦が共に働いていればそれぞれに15kg、妻が働いていなければ扶
養者として9kg、子供は最大三人までひとり7.5kgもらえる。だからかれらが米を
買う必要はめったに起こらない。農園の病院での医療費もすべて会社負担になっている。

茶摘み作業員はたいてい20年を超える勤務経験を持ち、生活に余裕があって貧困の面影
はさらされ見られない。カユアロには小学校があり、農園から37キロ南のプヌPenuh川
の町スガイプヌSungai Penuhに中学と高校そして大学がある。パダン市やジャンビ市の大
学へ行く者もいる。
「ここじゃ、茶摘み人の子供で学校教育を受けていない者はひとりもいませんよ。中には
子供を大学にやっている家もある。」茶摘み作業員のひとり、40歳前の主婦はそう述べ
ている。

どの家もたいてい本人の持ち家であり、更に銀行預金があったり、中にはもうひとつ家を
持っていたり、牛をはじめ数頭の家畜を持って他人に飼育させているひともある。そのせ
いで、カユアロ農園で働く者は日々の仕事に十二分に満足しており、会社を辞めて他の土
地に移って行く者はめったにいない。そしてもっと大きなメリットは、現場作業員たちと
会社管理者間の争議が起こったことがないということだ。双方にデメリットをもたらすそ
の種のことが起こらないだけでも、たいへんなメリットだと言うことができよう。
[ 続く ]