「ヌサンタラのフランス人(11)」(2020年08月20日)

2月8日、ボーリウはスルタン・イスカンダル・ムダに謁見することになった。かれは前
もってスルタンに献呈するために、フランス国王からもらっていた王章の付いた白紙用せ
んに国王からの手紙を書きこんだ。また贈り物としてドイツ製サーベル、長銃、槍などか
ら成る騎馬兵の戦闘装備のレプリカを用意した。レプリカは彫刻入りで、金箔で飾られて
いる。他には鏡やバラ水などだ。

やってきた港湾長と税関長は、スマトラ島最高の権力を持つアチェ王への贈り物としては
物足りない、と不満を述べた。フランス国王からの贈り物はこれで全部だ、とボーリウは
反駁した。

港湾長は謁見の場に参上するプロセスについてボーリウに説明した。王はボーリウを迎え
るために四人のランカヨと2頭の象を派遣する。かれらは王宮に向かうボーリウの行列に
付き添う。

先頭を6人のラッパと6人の太鼓、そして6人の道化が賑やかに進み、その後ろに14〜
5人の男たちが王への贈り物をひとつずつ持って歩き、ランカヨとボーリウたちがそのあ
とに続く。手紙を捧げ持つ者は象に乗り、ランカヨはアラブ馬にまたがり、そしてボーリ
ウは象に乗る。その後を徒歩でフランス人警護兵14〜5人が従い、最後尾を港湾長と税
関の役人たちが徒歩で進む。宿舎から王宮までおよそ4キロの距離を行列行進するのだ。


その日、行列が王宮前のアルナルンAlun-alunに着くと、ボーリウは象から降りて大門を
くぐった。フランス人警備兵はそこで待つよう命じられた。だれも中に入ってはならない。
王宮に入ったボーリウとかれの腹心一名は、大門を通ってから、更にふたつの門をくぐっ
た。そのあと、大きなバレbalaiに案内され、そこで靴を脱ぐように言われた。

ふたりの王宮の者が両側からボーリウの手を持って宮殿の中を進み、王の部屋の前まで来
た。銀箔を貼られた扉は閉まっている。しばらく待っていると宦官がひとり中から出てき
て、今日スルタンは体調がよくないが、せっかくここまで来たのだから中に入ってよい、
と言う。王は中にいて、ちょっと離れた位置にトルコ絨毯が一枚敷かれており、そこに座
るように言われたから、ボーリウは地元の慣習に従ってあぐらで座った。

王の使用人が出て行くと、ボーリウは地元の慣習にならって両手を額の前で合わせて少し
頭を下げ、王にあいさつした。帽子は取らない。王は床から1メートルほど高くなった玉
座に座っている。港湾長が王に代わって話し出した。

たくさんのプレゼントをしてくれたわが兄弟であるフランスの王に対して、スルタンは感
謝の気持ちであらせられる。もし10バハルbaharの黄金コインを贈り物にもらったなら、
あれらのたいへん素晴らしい武具に比べてどんなに喜ばしいことか。

ボーリウは港湾長の弁舌が長くなりそうなので、王に向かって言った。わたしの主人であ
るフランス国王の許しのもとに、わたしはスルタン陛下の手に口づけして、他の外国人が
得ているのと同様の、陛下の支配地における通商の許可をお願いするものでございます。
港湾長の通訳を聞いてから王は述べた。
「わたしはそなたの来航を喜んで歓迎する。わが国はそなたに門戸を開く。通商の許可に
ついては、オランダとイギリスはそのような許可のおかげでコショウをとても廉価に手に
入れた。ところがしばらく前からかれらは、以前からかれらを受け入れていたバンテン国
王と敵対関係に入った。感謝の気持ちを持たないかれらの振舞いに対してアチェ国王は、
問題の根を断つためにすべてのコショウの木を根絶やしにするよう命じた。今、コショウ
の売買は国王の命に従わなければならなくなっている。そのためにコショウ価格はバハル
当たり64レアルに値上がりしている。だが、問題はそんなことではないのだ。東インド
の資源を盗み奪って利益を漁り、東インドの通商をその手に握って支配しようとしている
かれらの行いを思えば、高い値段で売ればよいということにはならないのだ。」
[ 続く ]