「ヌサンタラのフランス人(14)」(2020年08月23日)

だがスルタン・イスカンダル・ムダの軍勢は4万人にのぼるのである。この王はその兵力
をいとも容易に動員することができる。だが兵士は銃を持たない。王は銃・大砲・火薬を
王宮警護兵だけに使わせているからだ。ある情報によれば王は5千門の大砲を持っている
という話だが、ボーリウはせいぜい1千2百門で、すべて青銅製だろうと考えている。火
縄銃は大量に持っているものの、銃身が短く、また大雑把な出来のものばかりだ。この軍
勢がよりをかけて誇っているものは9百頭の象だ。しかし、象が兵力を強化するというア
チェ人の観念がボーリウにはよく理解できなかった。

王はそれらの象にすべて名前を付け、もっとも勇敢で利口な象を民に認識させるために、
その象が街中に出る時には権威を示す傘を使わせるそうだ。また王はしばしば、疾走する
象の背に立ち、一本の杖で象を巧みに操縦する姿を民衆に示すのを好む。

王の心が愉悦に満たされると、王は美しく着飾った姿で二日間狩りに出る。王宮の厩には
2百頭近い駿馬がいて、すべての馬に豪華な鞍が置かれている。


アチェ王の軍備は海上にも行き届いている。2百隻近い大型軍船を常備している国は、こ
の近隣には他にひとつもない。その三分の一はキリスト教国で作られる軍船よりも大型だ。
船型はアジア型で、ヨーロッパ式設計のものは一隻もない。それらの軍船は6百から8百
人の兵士を乗せることができる。

王が出陣するときは、すべての軍事力が動員される。すべての民が王の一声で、三カ月分
の食料を自前で用意して集まって来る。かれらは王国所有の武器を借りて使い、いくさが
終わればそれを国庫に返さなければならない。だから、だれが何を借りたのかということ
がすべて記録されるのである。

動員された男たちの妻や子供、あるいはまだ生きていれば親たちも、は兵士の戦場での働
きに関係付けられる。もしも兵士が戦闘を避けたり、あるいは脱走などしたなら、その者
の家族は残虐な処罰を受けて死ぬ。

三カ月でいくさの決着が付かなかったときに限って、王は銃・大砲・火薬と米を軍勢のた
めに送り出す。戦死した民に男児がなければ、王はその一家を王宮に迎え入れる。もし娘
があれば、生き残った民に嫁がせる。娘がそれを望まなければ、王宮に迎え入れる。だか
ら王宮にいる女の数が膨大なのだ。父親は一家の遺産を男児にだけ相続する。男児がいな
ければ、すべてが王のものになる。人間ばかりか、家から家具に至るまで。

王はまた、死刑に処した者の遺産をすべて没収する。外国人が領土内で死んだときも、そ
の遺産はすべて王の物になる。外国人の遺言書は領土内で無効なのだから。外国人が病気
になったら、それを聞きつけた役人がやってきてまず家を没収する。そして死去したなら、
その者の財産の一切合切を全部王宮に運び込むのである。没した外国人の使用人・友人・
奴隷は、死者の黄金・お金・宝石類がどこにしまわれているのかについて尋問される。た
だしアチェに商館を設けたイギリス人とオランダ人は例外待遇になっている。


さて肝心のコショウの買付については、民衆から直接コショウを買う許可を求めるフラン
ス人に対して王宮側は、ストックしているコショウが売り切れるまで許可を出さない態度
に出た。民衆の価格はバハル当たり32レアルだが、王宮側は64レアルを崩さない。オ
ランダ人とイギリス人は48レアルを提示したものの、折り合いがつかない。

しかし市場では、民衆のコショウが少しずつ流れており、イギリス人がそれを手に入れて
いる。イギリス人はスラッSuratの商船に商品を売って黄金を手に入れているため、その
黄金で市場のコショウを手に入れるという有利な立場に立っている。[ 続く ]