「ヌサンタラのフランス人(23)」(2020年09月01日)

バタヴィアで一番人気の役職は港湾長だ。港湾長は外務大臣に似ている。バタヴィアには
港湾長がふたりいて、ひとりはキリスト教徒を扱い、もうひとりはインド人や華人を担当
している。つまりはヨーロッパ人とアジア人が区別されているということだ。このバタヴ
ィアというヨーロッパ人コロニーには華人が10万人住んでいる。

ジャワ島にはVOCの直接支配下にない、独立している王国が三つある。マタラム王国、
バンテン王国、チルボン王国がそれだ。行政上は独立していても、統治者はVOCに服従
している。それらの独立地区にはすべてVOCの出先機関が置かれ、要塞を構えて軍隊が
駐屯している。VOCは米・砂糖・鉛・アラッなどをVOCの求める量と価格でそれらの
独立地区から買い上げ、アヘンをかれらに売る。これは実に大儲けの商売である。

テルナーテ・ティドーレ・アンボン・バンダ・セラムなどからスパイスがバタヴィアに送
られてくる。そしてヨーロッパの需要を満たすに足る量をたくさんの船に積み込んでヨー
ロッパに積み出す。バタヴィアはその中継港なのだ。その年の分の積み出しが終われば、
まだ倉庫に残っているスパイスはすべて焼却される。


各地のオランダ商館を守護する要塞に駐屯している守備隊の戦力は、アンボイナでは指揮
官の大尉とふたりの砲兵士官が兵士150人の指揮を執っている。バンダは大尉ふたり、
少尉ふたり、砲兵士官ひとりで兵員3百名を指揮している。テルナーテの守備隊は大尉ひ
とりと砲兵士官ひとりが兵員250人を指揮している。マカッサルでも3百人の兵員を大
尉と少尉が各ひとり、砲兵士官がひとり指揮している。

ブーゲンヴィルはその戦力図をVOCの弱点と見なした。そんな防衛力では、本格的な攻
撃を受けたときにスパイス産地は容易に敵の手に落ちてしまうだろう。ましてや兵員の多
くは外国人傭兵なのであり、しかも不健康な熱帯での不健全な生活で、戦闘もないのに多
数の兵士が死んでいる。

そんな脆さにも関わらずVOCがスパイス貿易を独占できているのは、ひとえにヨーロッ
パ諸国の無知が大いなる援軍をVOCに与えているからだ、とかれは感想を述べている。


巨大な島スラウェシとボルネオはVOCに黄金・絹・貴木・ダイアモンドを提供し、VO
Cはインドやヨーロッパ産の鉄や綿その他の商品でそれを手に入れている。

スパイスに関してVOCは、シナモンはセイロン産をメインにし、ナツメグはアンボン、
クローブはバンダで、12月から収穫期に入る。1月にバタヴィアから船がやってきて、
4〜5月にバタヴィアに戻る。

スパイス生産は世界の需要をしのぐ量があり、そのためにVOCは定期的に産地の木を伐
採して減らしている。それらのスパイス産地で業務に携わっていた社員が退職するとき、
会社は地図・海図・測量図その他の資料をすべて会社に返却させ、文書は何も持っていな
いことを誓約させてはじめて退職させている。


10日間のバタヴィア滞在でブーゲンヴィルは歓待を愉しんだものの、乗組員がさまざま
な熱帯病に倒れて死亡する者が続出したため、このヨーロッパ人の墓場を早く退去しなけ
れば世界周航が果たせなくなると考え、かれは早朝5時に出港した。
船隊は1769年3月16日にサンマロに到着し、1766年12月にノンツNantesを出
て以来2年4カ月をかけたフランス人の世界周航が完結した。[ 続く ]