「ヌサンタラのフランス人(24)」(2020年09月02日)

フランス人文学者もヌサンタラにやってきた。代表格は詩人アルチュール・ランボーAr-
thur Rimbaudだろう。ランボーの東インド植民地軍脱走物語は拙作「ニャイ〜植民地の性
支配」< http://indojoho.ciao.jp/koreg/libnyai.html >に述べられているので、ご参
照ください。

ランボーの逃走経路について「ニャイ」では、かれはサラティガからスマラン港まで徒歩
で移動し、スマランからバタヴィアへ船で密航してから、オランダ以外の船に乗った可能
性が語られているが、かれはもっと危険の少ない方法を選択したそうだ。

ランボーはスマラン港からブラウン船長が指揮するイギリス船The Wandering Chief号に
エドウィン・ホームズの偽名で乗船し、99日後の1876年12月6日にアイルランド
南岸のクイーンズタウンで下船した。そしてその年12月31日、かれは出生地シャルレ
ヴィーレにある一族の家に姿を現したのである。


オノレ・ドゥ・バルザックHonore de Balzacはジャワ島への旅を著わした。1832年1
1月に出版された「パリからジャワへの旅Vorage de Paris a Java」には、ジャワの様子
が詳しく叙述されている。

折りしも、ジャワ人画家ラデン・サレがヨーロッパの画壇に登場して大センセーションを
巻き起こしていたころであり、ヨーロッパがアジアに目を向けてアジアに関するさまざま
な情報知識がブームになりつつあった時代だ。バルザックはこう書いている。

ヨーロッパ人、中でも詩人にとって、ジャワに匹敵する垂涎の地は他にない。まず第一に、
ジャワ女性はヨーロッパ人に首ったけなのだ。ジャワ人の家庭を形成しているジャワ女性
という魅惑的な存在を描くなら、かの女たちはたいへん色白できめ細かな肌をしており、
顔も色白で漆黒の眉毛と茶色の目がアクセントを添えている。髪の毛の美しさは比類がな
い。ジャワ女性の濃くて香りのよい髪を一度でも撫でて見れば、ヨーロッパ女性が帽子の
中に隠しているあの髪への尊重心は霧消してしまうことだろう。ジャワ女性はたいていが
金持ちで、未亡人だ。

ジャワ女性たちの感情を押し隠したりあるいは心中に恨みを潜ませる能力は、ヨーロッパ
のどの女性よりもとびぬけている。かの女たちはあなたを丸ごとわが物にすることを望み、
自分の競争相手に対してあなたがちらりとでも一瞥したなら、あなたへの赦しは決して与
えられない。そのような快楽はざらにあることでなく、またたいそう危険なのだから、そ
の快楽の深さは十分に想像がつこうというものだ。

その奇跡の島では、すべてが調和し、すべてが生を輝かし、それを呑み込み、そこから戻
る者に死をもたらす。ワイン・コーヒー・茶・アヘンは腹にもたらされた衝撃を通して直
接脳に作用する、われわれの精神の抽象性にのみ和合する重要な四つの刺激剤である。

あらゆる快楽はひとつになった。ジャワ女性・花・鳥・香料・太陽・空気・全魂をひとつ
ひとつの意味に注入する詩。わたしが東インドから戻って以来、それらはわたしの言葉に
溶け込んだ。

ジャワで死ぬ者は幸いなるかな。
言うまでもなく、生の問題は存命期間でなくクオリティ、つまり種々の感覚にある。だか
ら、すべての民族が出会い、永遠の廉価な市場、自ら何層倍もの楽しさを持つ、いつも緑
で多様な魅惑の島には、あらゆる種類の伝説の場所がある。情緒および快楽と危険に満ち
溢れているため、われわれの心は共鳴する。東洋世界に著作家が少ないのはそのせいだ。

そこでは、他者と交わることができるように、ひとはあまりにもたくさん自分自身のこと
を考えて生きている。もしもその地にあるのが感情だけなら、考え込んでも何の役にもた
たないのだ。[ 続く ]