「マジャパヒッの祝宴(終)」(2020年10月06日)

別のおかずは、マジャパヒッに服属したバリと西ヌサトゥンガラのもの。バリ料理はアヤ
ムプララゲルゲルayam pelalah Gelgelとラワルlawar。ラワルはバリ人の宇宙観の根底に
置かれている基本原理トリヒタカラナTri Hita Karanaを具現するものだそうだ。神と人
と自然の調和がトリヒタカラナの意味するところである。

ラワルのレシピーはこれ。
材料
ジュウロクササゲ kacang panjang 250グラム
ヤシの果肉フレーク kelapa parut 100グラム
赤バワン炒め bawang merah goreng 大匙半分
にんにく炒め bawang putih goreng 大匙半分
ライムジュース air jeruk nipis 少量

作り方
ジュウロクササゲは切って軽くゆでる。
スパイスペースト材料をペースト状に混ぜて、香りが出るまで炒める。
スパイスペーストにヤシフレークを混ぜ、味を調えてから軽く炒める。
ジュウロクササゲ、赤バワン炒め、にんにく炒めとペーストを混ぜて均一にし、皿に盛る。

スパイスペースト材料
赤バワン bawang merah 6個
ニンニク bawang putih 3個
赤トウガラシ cabai merah 6個
ガランガル lengkuas 1cm
バンウコン kencur 2cm
コリアンダー ketumbar 小匙半分
キャンドルナッツ kemiri 2個
蝦醤 terasi 小匙半分
赤砂糖(お好みで) gula merah 小匙2杯
塩 garam 適量

かつてハヤムルッ王がバリを訪れた時、バリの大寺院でバリ料理を使った盛大なもてなし
を受けたことがある。そのとき王はバリ料理に強い感銘を受けたようで、多分側近にそれ
を語ったことがあるのだろう。ジャワの地方部での祝宴でラワルが出て来たとき、王は大
いに喜ばれたとのことだ。

そして最後のサユルブブルッテロンsayur beberuk terongはスンバワ島西部にあるタリワ
ンTaliwang地方の郷土料理であり、スズメ茄子terong hijau bulatの大小切り・赤トウガ
ラシ・トマト・ジュウロクササゲなどが使われている。西ヌサトゥンガラを征服した後、
マジャパヒッはタリワンにその地方の都を置いた。アヤムタリワンはロンボッ島で有名な
料理だが、タリワンそのものはロンボッ島ではない。


最後のデザートも、ハヤムルッ王が好んだとされている清涼な食品が登場した。エスシワ
ラントゥバンes siwalan Tubanがそれだ。インドネシアでは昔からロンタルの葉が紙の代
わりに使われていたため、ロンタルという言葉の方が有名になっているが、別名をシワラ
ンとも言う。このオオギヤシの実は食用にされ、また花から採取される液体はニラair 
niraと呼ばれて飲用にされる。ナガラクルタガマはニラのことをair lontarやair siwalan
とも記しており、それはマジャパヒッの民衆社会で一般的に飲まれていた飲み物だった。

ニラを発酵させるとヤシ酒になる。ジャワでヤシ酒はルゲンlegenと呼ばれ、マジャパヒッ
時代にはルゲンが宮廷から一般庶民に至るまで大いに好まれていた。ムラユ語文化地域で
は同じものがtuakと呼ばれている。

エスシワランはヤシ酒になる前のニラの液体とその実を使ったものであり、冷やして食す
るためにエス(氷)と名付けられたが、言うまでもなくエスesという言葉はオランダ語ijs
に由来しており、ハヤムルッ王の時代にそのものがそう呼ばれていたわけでは決してない。
こうしてルゲンの欠けたマジャパヒッの祝宴の再現は、8百年昔とは少し異なる形で幕を
閉じたのであった。[ 完 ]