「ヌサンタラの酒(3)」(2020年10月08日)

インドネシアでは闇酒あるいは密造酒が昔から作られていたが、その意味が単に行政許可
や税金に関わるものであるなら、消費者への危険はない。このカテゴリーはインドネシア
語でmiras tanpa izinあるいはmiras gelapと表現される。

ミラスというインドネシア語はminuman kerasの合成語であり、基本語義は蒸留されて作
られたアルコール飲料となっているが、すべてのアルコール飲料の総称としても使われて
いるため判別は難しい。その種の飲み物を形容するのにkerasの語が使われたのは、どの
ような意味をそこに与えようとしていたためだろうか?ほぼミラスの対照になると思われ
るソフトドリンクのインドネシア語にringanというkerasと非対称な言葉が使われている
のは、その両者が同時期に作られた言葉でないことを示しているように思われる。keras
の語義は多岐にわたっており、酒に与えられたkerasという形容詞の語義が何であったの
かを探して見るのも一興かもしれない。


最近、インドネシア在住の日本人の間で話題になっている、消費者の健康に危険をもたら
すカテゴリーのものがまた別にあって、それはmiras oplosanと呼ばれている。オプロサ
ンという単語はオランダ語のoplossenに由来しており、「溶かす」がその原意だ。

昔、灯油がたいへん廉かった時期があり、そのころプレミウムガソリンに灯油を混ぜて道
端で廉価に販売する者が現れた。その商品はbensin oplosanと呼ばれた。普通の一般家庭
の台所で混ぜ物を作るときにoplosという単語が使われることもある。単なる混ぜ物とい
う意味であって、語感に悪事のニュアンスがあるわけでは決してない。

このミラスオプロサンと呼ばれる物には更にまたふたつのカテゴリーがある。アラッに廉
価素材を加えた混ぜ物を作り、商品として販売されるものがそのひとつ。廉価素材は工業
用のメチルアルコールが使われるケースが多く、健康にきわめて有害なために、死者が出
ることも少なくない。

ヨグヤカルタでラプンlapenという名称で売られているものや、ジャワ島全般でチュクリ
ッcukrikと呼ばれているものもそれに該当する。アラッに変性アルコールを混ぜたたいへ
ん高濃度のアルコール飲料になっていて、時おり死者が出る。ラプンなどはlangsung 
peningの略語だそうで、購入者は酔うためにそれを購入しているのが明白であり、おまけ
に酔って恍惚となることに加えて、自分の強さを実証しようとして飲んでいるようにも思
われ、酒に強い人間の偉大さという世界中に存在する虚像がインドネシアにも存在してい
る雰囲気をそこから嗅ぎ取ることができる。

もうひとつあるのは、消費者が普通のアラッを購入し、リキュールやパンチのようにそれ
にさまざまなものを自分で加えて飲む方式だ。薬草やソフトドリンクを加えるのなら問題
はないだろうが、とんでもないものを加える輩がいる。

昔から犠牲者を何人も出しているのに、依然として人気の高いオプロサンレシピ―には次
のようなものがある。
*ミラスとエネルギードリンク
*ミラスとココナツウオーター
*ミラスと大量の炭酸ドリンク
*ミラスと虫よけローション
*ミラスと炭酸ドリンクと味付けパウダー
*ミラスとペンキ用シンナーと炭酸ドリンク
*ミラスとゾウノリンゴ汁と食品着色料着香料とジャムゥ
*チウ(下記参照)と変性アルコールと虫よけローション
*多種のミラスを混ぜ合わせる
[ 続く ]