「ヌサンタラの飲み物(1)」(2020年10月13日)

どこの土地でも、地元で採れる素材を使って飲み物を作ることは行われて来た。ヌサンタ
ラとて例外ではない。スパイスを使って作られたウェダンがその一例だし、前記事「ジャ
ワビール」に述べられているものもそうだ。

インドネシアにはトゥムラワッtemulawakというウコン属植物がある。この根は昔からジ
ャムゥの材料に使われて来た。トゥムラワッの効能は少なくない。食欲増進、消化機能向
上、肝臓を活性化させる、関節の炎症や痛みを緩和する、コレステロールを低下させる、
アンチオキシダント、血栓予防、などいろいろな効能が語られている。

トゥムラワッの簡単な飲み方は、すりおろした根とショウガやシナモンあるいはシリの葉
などを一緒にし、塩砂糖でお好みの味付けをして鍋の水に入れ、煮立たせばばそれで出来
上がりだ。その汁を飲むのである。だが、どの家庭でも簡単に作れるそんなものを大量生
産しても売れはしない。工業人に知恵が求められるゆえんだろう。

1960年にジャワ島東端のバニュワギBanyuwangi県でリム・ジュンケオンなる人物が知
恵を使った。かれはトゥムラワッを炭酸飲料にしたのである。320ccほどの小瓶に入
った炭酸飲料のキャップを開けるとホワッと蒸気が立ち昇るので、この炭酸飲料はsari 
temulawak beruapと呼ばれるようになった。黄〜オレンジがかって澄んだ液体の中で炭酸
の泡が立ち昇る絵柄は、一見、シャンペンのようにも見える。現にジャワ人たちはシャン
ペンのつもりで飲んでいるようだから、やはりかれらのアルコール飲料志向がここにも出
現しているようだ。

バリ島のカフェでこれを初めて飲んだ外国人旅行客は、概して気に入った印象を示す。外
国人にも受けが良いというのがジャワ人の自慢の種だから、この種の宣伝はジャワ島内に
向けてどんどん使われることになる。ヨグヤカルタを「ジョクジャ、ジョクジャ」と言い
たがるジャワ人の精神傾向もそれを投影しているとわたしは感じている。

ともあれ、その雰囲気が洗練された味わいを醸し出すため、ライフスタイルを重視するひ
とびとへの効果は絶大で、市場で人気が高まっていったことは言うまでもない。

この飲料はバニュワギから近隣のシトゥボンドSitubondo、ボンドウォソBondowoso、バリ
へと販路を拡大して行った。乾季が需要最盛期になるため、生産者は3千クレートを出荷
するが、雨季には半減してしまう。1クレートには1千5百本が載っているから、結構な
量だ。


西ジャワ州バンドン県チウィデイCiwideyで1970年代からAbahというブランドを付けた
瓶詰めバンドレッbandrekが生産されるようになった。元々アバと呼ばれた人物はアバ・ア
ンディのことで、かれは自家製バンドレッを行商で売り歩いていたが、評判が良かったた
めに、一家でそれを大量生産し始めたということだ。[ 続く ]