「インドネシアの米(前)」(2020年11月04日)

インドネシアには様々な米の種類がある。白米・茶米・赤米・黒米と実に多種多彩だ。イ
ンドネシア語で米はberasだが、モチ米は特にberas ketanと表現されるところから、ブラ
スberasというのは米全般を指していて、モチ米はその一種という捉え方になっているよ
うに思われる。日本人がモチ米とうるち米を対立概念とし、そのふたつで米という概念を
構成しているのとは異なる視点が使われているように見える。言い換えるなら、インドネ
シアにはうるち米という概念だけを示す言葉がないということができそうだ。

現実に、パサルでクタンでない米を買っても、その中に粘り気のある品種がないわけでは
ない。クタンでないブラスだが粘り気がクタン並みに高い物をインドネシア人はブラスプ
ルンberas pulenと呼んでいる。粘り気のない、ナシゴレンに最適な米はブラスプラberas 
peraと呼ばれる。中にはブラスペラと発音するひともあるから、両方を覚えておけばよい
だろう。

[ 白米 ]
インドネシアの白米の中で、1970〜80年代のジャカルタで日本人社会から美味しい
コメという賛辞を与えられていたチアンジュル米beras Cianjurとは、現在パンダンワギ
pandanwangiの名称で販売されているものだそうだ。パンダンワギは西ジャワ州のチアン
ジュル一帯の原生種で、昔から国内市場でも優良種として高価格が付けられていたもので
あり、この飯を炊くとパンダンの香りが立ち昇ることから1973年以来パンダンワギの
名前で販売されるようになった。パンダンワギの飯は真っ白でなく、少し黄色がかってい
る。
パンダンワギは収穫まで5カ月かかり、ヘクタール当たりの生産性は平均7トンだそうだ。
パンダンワギの一級米は破砕米が5%を限度としており、二級品で25%まで増える。実
は、このパンダンワギという名称の米は全国至る所で販売されており、西ジャワの一地方
で採れる米がそこまで全国制覇を果たしているのか、という感嘆が脳裏をよぎることにな
るのだが、続いてそこまでの生産量が本当にあるのかという疑念が鎌首をもたげる。
案の定、チアンジュルの農民の話によれば、昔はパンダンワギの名前を付けたニセモノが
全国各地に出回っていたそうで、さまざまな対策を行ってニセモノ撲滅に努めて来たとの
ことだが、今日現在、ニセモノがゼロになっている保証もないようだ。

次いで中部東部ジャワで産するロジョレレrojolele米がある。これもパンダンワギに次い
で香りの高いものであり、粘り気も同じようにある。ムンジュルmunjul米という別名を持
つこの米は丸みを帯びていて、米粒に白い部分があり、炊かれるとそれがたいへん柔らか
い食感をもたらしてくれる。この米も値段が高めになっているが、それは収穫が難しいこ
とや、コメが長持ちしないといった要素に負うところが大きい。

セトララモスSetra Ramos米というものも、スーパーでよく目にする品種だ。これはIR
64という開発品種のものであり、価格がお手頃であるために買いやすい。この米の粒は
ちょっと長めの、普通種によくあるタイプであり、香りはまったくない。炊く前なら米の
保存は長期に可能だが、炊いた米はあまり長持ちしないので、一度にたくさん炊かないよ
うに気を付けなければならない。飯は粘り気を持つので、炊き立て熱々の白飯を愉しむに
は、経済面からお勧めだと言えよう。

IR42米というものもある。この米はナシゴレン、ナシウドゥッnasi uduk、ロントン
lontong、クトゥパッketupatなどに最適だ。ブラスプラの代表選手がこれだと思ってもよ
いくらいのもの。米粒は小さめで、乾いていて硬く、粘り気に乏しい。
ところが値段が廉いかというとそれほどでもなく、農民があまり大量に作りたがらないた
めに生産量が小さく、必然的に需給関係がひっ迫してあまり安くならないという市場現象
になっている。

しばしば日本米beras Jepangの異名で呼ばれることのあるバタンレンバン米beras batang 
lembangは、もちろんインドネシアの国産種だ。IR64とshinthaを交配させて得られた
国産最高のプルン米であり、日本米に劣らないということを強調して日本米とよく言われ
るが、日本の稲ではない。原生地はスマトラだという情報もある。西スマトラ州ソロッ
solokにバタンレンバンという地名があるので、そこに関連しているのかもしれない。
[ 続く ]