「インドネシアの米(後)」(2020年11月05日)

[ 茶米 ]
beras cokelatと呼ばれるこの米はもみ殻を落としただけの状態の米で、日本では玄米と
呼ばれている。白米にされる前段階の状態であり、滑らかさや粘り気はなく、インドネシ
アで言うプラ飯nasi peraになる。

炊くのに時間がかかり、おまけに炊いた飯は長持ちしない。しかしたいへん豊富な栄養素
と繊維質のために、人気があることも確かだ。

[ 赤米 ]
beras merahの赤色はアントシアニンが含有されているためで、ピーナツに似た味がする。
これも繊維質や栄養素が豊富なため、ダイエット食として人気がある。炊いた後は傷むの
が早いから、要注意だ。炊く前に20〜25分くらい水に漬けておくのがよい。

インドネシアでは通常、赤米は白米よりも値段が高い。中国では昔から赤米を支配階層が
独占して庶民に食べさせないようにしたため、forbidden riceの異名を与えられていたと
インドネシア語ウィキに説明されているのだが、英語ウィキではforbidden riceとして黒
米が述べられていて、情報の混乱があるようだ。

日本の赤飯のルーツは赤米であり、古代日本では神事に赤米が奉納されたことに関連付け
て赤飯の由来が説明されているが、一方で中国から日本に伝わって来た最初の稲は赤米だ
ったという説もあり、コメを神事の奉納に使ったのは理解できても、赤い飯が当たり前の
世の中で祝祭を賀すための赤飯が毎日食べている赤い飯では代わり映えがしないだろうと
いう気がする。

たとえ白米が赤米を駆逐した後になってからのことだったとしても、祝祭を賀すための赤
飯は古代の赤米のなごりを懐かしんで既にほとんど手に入らなくなった赤米の代わりに小
豆を・・・などということを日本民族の先祖が本当にしたのかどうか?赤米をなくしてお
いて赤米を懐かしむという精神構造は自然なものなのだろうか?

東南アジアで赤米が祝祭の食べ物であるように、日本の赤飯も云々という情報もネット内
に見られるのだが、インドネシアのジャワ島では祝祭の飯が黄飯nasi kuningになってお
り、黄飯は白米にターメリックを混ぜて着色したもので、黄色は黄金を象徴している。も
ちろん、赤米を使った赤飯も往々にして供せられるにせよ、主役の座は円錐形の黄飯nasi 
tumpengが担い、赤米は賑わいを添えるワンノブゼムになっている。ひょっとして日本の
赤飯の由来も、日本のはてな常識のひとつなのだろうか?

[ 黒米 ]
beras hitamは真っ黒な米粒だが、炊いた後は紫色になる。この色もアントシアニンが作
り出している。アントシアニンの含有は黒米が最大だ。繊維質や栄養素も豊富であり、一
般に黒米が他の米に比べて人体の健康に一番よいと信じられている。

これまでは赤米が健康食と騒がれてきたが、昨今では黒米の方が高い評判を得ているよう
だ。かつてジャワで黒米は王宮の食べ物として一般庶民が食べることを禁じられた。中国
のforbidden riceと同じだ。王宮が特定の農民を指定して黒米を作らせ、収穫を全部取り
上げたから庶民の口に入ることはなかった。時代が変わった今、王宮よりも経済システム
が農民の動きを支配している。

黒米はプルンpulenで香りがあり、美味い。そうでなければ王宮が独占しようとはしない
だろう。黒い飯という見た目の不利は、口の中で一気に大きなメリットに変化するのであ
る。スラバヤのあるレストランでは、黒米のナシゴレンをお勧め品にしているところがあ
るそうだ。

黒米稲は乾燥地でも生育することができるため、稲栽培に向いていなかった地域や地方で
生産させることによってそれらの地方の経済建設に役立てることができ、また従来から供
給量が限られていたために高価格になっており、経済建設にダブルのメリットがもたらさ
れる。インドネシアには百を超える黒米の品種があり、需要が小さかったことから農民は
ほとんど栽培していなかったが、将来性は十分にあると行政側は見ている。
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[ モチ米 ]
beras ketanは言うまでもなく、普通の米よりもアミロペクチンの含有率が高く、アミロ
ースが低い。炊くと、粘り気がきわめて大きくなる。モチ米には白モチ米beras ketan 
putihと黒モチ米beras ketan hitamがあり、黒モチ米は甘いかゆbubur ketan hitamにし
て食後のデザートやおやつに食されるケースが多い。[ 完 ]