「豊かな飯のバリエーション(3)」(2020年11月11日)

日本軍政期にコメが手に入らなくなったその地方の住民はみんなティウルを食べていたと
いう話がいまだに語り伝えられている。ヨグヤ特別州でもティウルは日用食品になってい
て、家内工業で作るひとがたくさんおり、生産者の自宅やパサルで販売されている。

バントゥル県チャンデン村の住民スヤティさん42歳のお宅では、スヤティさんが19時
ごろからティウルを作り始める。シンコンの根を洗って干したガプレッgaplekと呼ばれる
ものを潰してふるいにかけ、粉にする。粉に水を少し加えてドウを作り、蒸す。できあが
ったティウルは傷みが早いため、蒸す作業はなるべく深夜に行うようにしている、とスヤ
ティさんは言う。

ティウルを5百個作って個別包装し、販売者が売りやすい形に整え終わったころがおよそ
午前2時。そのころには、販売者や仲買人がやってきて仕入れを行う。たいていいつも、
60袋を残して売り切れる。60袋はスヤティさんが自ら近くのジェジェラン市場に持ち
込んで販売するための商品だ。

スヤティさんはたいてい毎日ガプレッを25キロ購入する。キロ当たり2千ルピアだ。更
に粉砂糖1キロを8千ルピアで買う。製品は1個250ルピアで販売する。

ティウルは白ガプレッを使うが、黒ガプレッを使うガトッgatotというバリエーションも
ある。黒ガプレッは処理がちょっと面倒だ。24時間水に漬けてから、密封容器に入れて
24時間置く。それを切ってパームシュガーと合わせ、蒸す。

そうやって夜中に作った商品を午前3時半ごろにオートバイに載せてパサルに向かう。ガ
トッの値段は1個400ルピアで、ティウルより高い。商売が終わるのはたいてい午前6
時半ごろになり、それから家に帰って寝るというのが生産者たちの日常の生活パターンに
なっている。


ヨグヤカルタ特別州では、ティウルやガトッの産地はグヌンキドゥル県が常識になってい
る。州内で最大のガプレッの産地はそこであり、その帰結として加工食品が作られ、住民
が愛用する食品になるという連鎖が起こるからだ。

だが県境を越えるとその生産・加工・消費がピタリとなくなるという現象など起こるわけ
がない。マクロとミクロを混同した想像というのがそれなのである。バントゥル県チャン
デン村ウォノロポ部落にも生産者がおよそ30軒ある。

生産者たちは共倒れを防ぐために協議して、近隣パサルの割り当てを行っている。年寄り
の生産者はなるべく居所から近いパサル、若い生産者はその外側のもっと離れたプランバ
ナンやクロンプロゴのパサルが商売の場所に割り当てられる。

チャンデン村ウォノロポ部落の長老のひとりは、ティウルとガトッの商売を数十年前に最
初に始めたのは5人くらいだった、と回顧する。「そのひとたちはパサルでティウルやガ
トッがよく売れているのに目を向けて、自分も作れないだろうかと考えた。それで見様見
真似で作り始め、自分で作った物をパサルに持ち込んで販売した。すると結構売れたそう
です。すると、われもわれもとその商売をするひとが増えましたね。この部落の主産業は
今じゃそれになってますし、住民の主要食品にもなってますよ。」


オイェッ飯でなくてジャグン飯nasi jagungというものもある。ジャグンとはトウモロコ
シのことだ。ジャグン飯は中部ジャワ・東ジャワ・マドゥラで一般的に消費されており、
最近では健康食品として見直されている。

トウモロコシは普通の黄色いスイートコーンを使うものもあるが、中部ジャワ州ボヨラリ
県では白コーンで米粒状にしたものが使われ、一見コメの飯のように見える。だがトウモ
ロコシ粒は一回炊くだけだとまだ固く、数回炊いてやっとコメのような柔らかさを得るこ
とができる。[ 続く ]