「豊かな飯のバリエーション(終)」(2020年11月12日)

ボヨラリ県チュポゴ郡ムリウィス村住民マルウィアさん35歳は毎日ジャグン飯を10キ
ロ作って近在の市場で販売している。一回炊いただけのコーンを混ぜたものはキロ当たり
5千5百ルピア、数回炊いて柔らかくしたコーンを使うものはキロ当たり8千ルピアの価
格。本人ご一家は、普段は白飯を食べているが、日によっては家族がその売り物を食べる
ときもある。最近は白飯を食べる日が減っている、とマルウィアさんは語っている。

同じ村のマルウォトさん43歳は、一週間にジャグン飯は4日、白飯は3日というメニュ
ーだと言う。「ジャグン飯のほうがフレッシュだし、安くて日持ちがしますからね。おま
けに昨今のように白米の値上がりが起これば、なおさらだ。」

かれの話によれば、白コーンは1キロ3〜3.5千ルピア、ジャグン飯用は4.5〜5千
ルピアだそうだ。ジャグン飯用コーンは一回に4キロを二日間分として炊く。コメも一日
分の2キロを炊く。ジャグン飯用コーンは炊いた後、二三日はもつ。

ジャグン飯用コーンはコメよりも粒が小さいがコメと同じような色をしている。トウモロ
コシのほうがコメより糖分が少ないため、ジャグン飯用コーンだけ食べても味気ない。


ジャグン飯はムラピMerapi山稜一帯で昔から伝統食品になっていた。1990年代ごろで
もジャグン飯が主食として扱われ、白飯は特別なものにされてきた。ところが白飯を普通
のものにする習慣がジャグン飯を駆逐しつつある。

ボヨラリ県セロ郡サミラン村で雑貨商を営むスジヤティさん50歳はその変遷をこう述べ
ている。「昔、ジャグン飯は至る所で売られていました。ところが今ではわたしだけです
よ。スロ月が近付くと、グヌガンgununganのお供えをするために需要が増えるので、あち
こちで売られるようになりますが、それを過ぎたらまたわたしだけ。ジャグン飯を作るの
は白飯より手がかかるので、どうしてもそうなっちゃんでしょうねえ。」

白飯なら、コメを洗って炊くだけ。30分でできあがる。ジャグン飯は一晩水に漬け、二
度目の選別をし、二三回炊く。炊く作業に二時間くらいかけるから、白飯よりもはるかに
手間暇がかかる。

サラティガのサティヤワチャナ基督教大学教授は、国民の米食偏向習慣がマクロ経済と国
民文化への脅威になる可能性を指摘して、ジャグン飯を推奨している。村落部国民が持っ
ていた慣習にもっと光を当てるべきだと教授は主張している。


だがしかし、オイェッ飯もジャグン飯もアキン飯nasi akingに比べたらまだマシだろう。
アキン飯は元々家禽の飼料として使われていたものだ。最貧困層の中にはアキン飯を常食
しているひとびともいる。

アキン飯とは、一度炊かれた普通の飯が消費されずに残り、日が経って変質したために食
べられなくなったものを原料にしている。茶色に変色し、カビが生えている飯、要するに
腐り飯のことだ。腐り飯を洗い、天日乾燥させて固くすれば、家禽類の餌に使える。それ
は昔から農村で行われて来たことなのである。

そして今や最下層貧困層の中に、このアキン飯を食べるひとびとが増加している。かれら
には最下級米を買うだけの経済的余裕もなく、しかしコメを食べたいがために、アキン飯
を自分の腹に入れるようになった。

かれらはまずアキン飯から混じっている異物を取り去り、コメ粒を洗い、天日で乾かし、
それを食べやすいようにして食べる。カビで酸っぱくなった味を和らげるために、ターメ
リックをまぶして食べるのが普通だ。

もちろん人体の健康には有害であるため政府の指導が行われているものの、政府が最貧困
層に食糧配給をしてくれるわけでもなく、貧困層を生んでいる構造の抜本的な改善がなさ
れないかぎり、インドネシアの地上から家禽人間がいなくなることはあるまい。[ 完 ]