「食の多様性の誇りと現実(7)」(2020年11月24日)

サゴ粉作りについては、昔は手工業風にサゴの幹から中身を手でかき取っていたから、一
日にせいぜいバケツ二杯程度しかできなかった。しかし世代が変わって、村民が動力を使
ってサゴの幹を破砕する機械を考案したために、一日で4〜6本のサゴの幹を処理するこ
とができるようになった。おかげでバケツ百杯分を超える量になる。

マルタプラ川の上流でとれたルンビアの木は幹だけにしてから筏を組み、川に流す。作業
場まで来ると岸に寄せ、皮をむいてから順番に破砕作業に回される。皮をむいてから破砕
までの間に日数があくと乾燥させないようにケアしなければならないが、たいていは夕方
に皮をむいて裁断し、翌朝破砕作業にかけられるのが通例だ。

しかし地元一円で採れるルンビアは品質の良いものが減っていて、中部カリマンタン州ク
アラカプアスから取り寄せるものが増えている。カプアス川流域のルンビアはまだあまり
手が付けられていないために質量ともに豊富の一語に尽き、価格もまだそれほど高くない
そうだ。

破砕された粉ルンビアは袋に詰めて、下に水槽がある高床の作業場に上げられる。上には
若い衆が6人いて、川の水をかけながら男の足で袋を踏むのである。その足踏み作業に元
気が出るよう、スピーカーでハウスミュージックが流される。さしずめ、野天ディスコさ
ながらだ。

ディスコ三昧の若い衆たちは、手を振り、腰をひねり、一心不乱に踊る、いやサゴを搾る。
その装いはさまざまで、中には上半身裸にパンツ一丁という者もいる。「サゴの粉搾りは
パンツでやるんだぜ」というジョークは多分その情景から作られたものだろう。

粉ルンビアの袋から水と一緒に流れ出たでんぷん質は、下の貯水槽に流れて行く。夕方に
なると、貯水槽に堆積したサゴ粉を取り出すために水を捨てる。一番上の黄色い層を捨て
去ると、下から真っ白な濡れたサゴ粉が現れる。それを購入者のトラックに積むと、トラ
ックは日暮れ間近い空の下を都会の倉庫目指して走り去って行くのである。

製品は自家消費や州内の消費に使われる。州内の都市部ではサゴを使って菓子類や麺・ビ
ーフンが作られ、商店や食堂で販売されている。そのほかにも、定期的にジャワに送られ
る分もある。

スガイタブッ郡には20〜30のサゴ製造事業所がある。一カ所でおよそ6〜10人の雇
用が発生しているから、失業問題はあまりない。そして週に3トンの粉末サゴが生産され
ているので、地域経済にも明るさが漂っている。


ジャワ島でもサゴは生産されている。西ジャワ州スカブミ県バンタルガドゥン郡ワグンジ
ャヤ村では1981年からサゴ粉の生産が開始された。原料はバンテン州パンデグランか
ら取り寄せたアレンarenヤシの木で、ここも南カリマンタンのような伝統工法が使われて
おり、サゴ粉に水をかけながら足で踏む作業は同じように行われている。こちらの方は足
踏みが30分程度行われるだけであり、ハウスミュージックの伴奏を使うディスコもどき
のことはしていない。[ 続く ]