「インドネシアのウナギ(終)」(2020年12月24日)
ナシクチンというのはミニミニ版のナシブンクスで、猫に食べさせるほど少量の飯にわず
かなおかずやサンバルを添えて包んだものだ。かれは料理したタウナギ一切れをおかずに
入れたナシクチンを製造販売していた。評判が良く、売れすぎて大わらわになったとサバ
ル氏は述懐している。

そして捕獲人たちが1997年にバントゥル一帯の田んぼでタウナギを捕獲する仕事にか
れを誘ったのである。仲間たちはかれに、捕れたタウナギを料理するよう依頼した。みん
なで野天で昼めしを食う。仲間たちにきわめて好評だったことから、サバル氏は2000
年に自宅をワルンにしてタウナギ飯処の看板を掲げたというわけだ。開業したころは一日
の販売量が2キロほどしかなかったが、今や毎日平均15キロは売れるようになっている。


中部ジャワ州チラチャップCilacapのスガラアナカンSegara Anakanでウナギsidatの養殖
が行われている。カリウグKaliwungu村で行われている養殖はまだ量が少なく、月産1ト
ンに満たない。生産されたウナギは全量が国内の、しかもジャワ=バリのレストラン業界
に出荷されている。日本・中華・日本風などのレストランでウナギが人気のある料理にな
っているため、生産が注文に追いつかない状況であるそうだ。

国内ビジネスでは、ウナギ1キロが15万ルピアにもなるので、たいへん大きいマージン
が得られる。需給の大きい偏りがその現象を招いているのだろうが、消費者価格が上がっ
てしまっていることも一役買っているに違いあるまい。供給が増加したとき、消費者価格
は果たして下がるだろうか?

そこに来て、外国から買いのオファーが入って来た。日本・シンガポール・ベトナムから
月5トンくらいの供給を求める話が来ている。県漁協はウナギ養殖産業を盛り立てるこの
よい機会を早急に実現させたいと望んでいるが、養殖事業に参入する地元漁民はまだあま
りいない。

インドネシアのウナギ養殖は西ジャワ州スカブミ、東ジャワ州バニュワギが先に名乗りを
上げており、カリウグは第三位に就いた。世界には20種類のウナギがおり、その中の8
種がインドネシアに生息している。スガラアナカンはインド洋に臨む潟であり、インド洋
を巡った海ウナギsidat lautがやってきてマングローブ林に産卵する。インドネシアでは
ウナギ保護のための捕獲禁止がまだ定められておらず、養殖に頼らずに捕獲生産すること
も可能だ。


2003年、スガラアナカン周辺にウナギ養殖は皆無であり、海ウナギの仲買をしている
人間がひとりだけいた。当時52歳のスキマン氏は、漁師が捕獲した海ウナギを買い取り、
都市部の日本や韓国レストラン、あるいは輸出業者に販売していた。ただし、かれが直接
販売するのでなく、また別の仲介業者がその間に立っているのである。

海辺にあるかれの自宅の裏には1立米の容器が三つ置かれ、その中で千匹を超えるウナギ
がうごめいていた。毎日朝晩水を替えてやれば、ウナギは一年間その容器の中で生き永ら
えるそうだ。エビ・カニ・貝・鶏の腸のみじん切りなどがウナギの餌だ。

海ウナギを獲って来る漁師はみんな親しい仲間になっていて、あたかも人間関係でこのビ
ジネスが回っている感がある。漁師は潟の中や岸辺のマングローブ林でウナギを獲って来
る。漁師はキロ1.8万で売り、スキマン氏はジャカルタのレストランに3〜3.5万ル
ピアで売る。レストランは客に一切れを4.5万ルピアで売っている。かれの販売量は毎
週1〜2トンで、すべて生きているウナギだ。


ウナギの回遊は10〜4月の雨季にスガラアナカンの潟にやってきて、河口に集まり産卵
する。ウナギの捕り方はユニークで、釣り糸や網を使うのでなく、ミミズをより合わせて
輪にしたものを船べりの水に浮かべる。するとたくさんのウナギが寄って来てミミズの輪
を食べようとする。漁師はそれを捕まえるのだそうだ。

スンダ人は海ウナギを食べる際にペペスpepesにする。レストランでは頭と尾を落として
燻製にしたり焼いたりしている。揚げ物にしないのは、脂の層が厚いためにカリッと揚が
らないためだという話だ。[ 完 ]