「ジャワ豹(1)」(2021年01月18日)

ジャワ島にジャワ豹Panthera pardus melasがいる。世界には24種のヒョウがいて、イ
ンド・アフリカ・ロシア・中国などに独自の種が存在しており、ジャワ豹はかれらにくら
べてユニークな存在と考えられている。というのは、ジャワ島が大陸部から切り離されて
島になったときにかれらはこのたいして広くない島に閉じ込められ、それ以降、そこでの
状況に適応して独自の道を歩んだことが推測されるからだ。ジャワ島でジャワ豹の棲息領
域は標高ゼロから1千メートルまでの陸地で、松林・チーク林・山岳部の自然林や森に棲
み、2008年の国際自然保護連合データによれば総頭数は250を下回っている。しか
しジャワ豹を州のシンボルにしている西ジャワ州天然資源保存館は、全ジャワ島に5百頭
くらいはいるだろうと推測している。

ジャワ島内で特に西ジャワに多く見られるのは、西ジャワが山岳地帯であることに関係し
ているのではあるまいか。西ジャワでヒョウは昔、民衆に愛され尊敬された野獣だった。
それは住民が作った田や畑を荒らすイノシシをヒョウが退治してくれたからだ。だが今や
そのイノシシすら激減した環境でかれらが生き延びるためには、人間の生活領域に踏み込
まざるを得なくなっている。飼育動物を盗んで食らうこの野獣はもはや住民にとっての害
獣でしかない。

ジャワ豹は成長すると体長90から150センチ、体高60〜95センチ、体重40〜6
0キロになる。全身に茶色がかった黄色の斑点があって、夜行性で木登りがうまく、また
泳ぎも達者だ。寿命は平均して20年くらいであり、5〜15キロ平米の行動範囲を持っ
ている。


1910年代にバンドンの街中に迷い込んだヒョウがいて大騒ぎになり、ハンターが動員
されて憐れなヒョウが始末された新聞記事がある。

住民が若い白人ハンターに出馬を要請したところ、そのハンターは「ひとりじゃだめだ。
何人かでやらなきゃ。」と言う。で、プリブミハンターにも誘いがかかり、ふたりのプリ
ブミがやってきた。射手が三人そろったところで出動した。比較的中型のヒョウ一匹をし
とめて獲物を役所に持ち込んだら記念写真となった。残されている写真はヒョウを前にし
て白ずくめの白人ハンターが中央、白装束でないプリブミハンターが両脇、その後方に数
えきれないほどの民衆が写っている。


近年でも、憐れなヒョウたちは環境破壊が進む一方の山から人間の生活領域に下りて来る
ものが少なくない。2011年9月には、チクライCikurai山麓のチラウの村に迷い込ん
で来た子供のヒョウが猟犬6頭と闘い、息絶え絶えになっているのを救われてガルッのチ
クンブラン動物園に収容された。猟犬5頭もそのとき深手を負っている。

体重25キロほどのその雌のヒョウは生後1年未満と見られ、授乳期を終えて独力で餌を
獲るのを学習中の段階だったのではないかと動物園飼育係は述べている。しかしかれらの
生活領域が狭まるにつれて、かれらのサバイバルは困難さを増しているのだ。雌が妊娠す
ると110日間くらいで2〜6頭が生まれるが、生き残って大人になるのは1〜2頭しか
いない。また頭数が減って来れば近親婚の傾向が高まり、劣弱な個体の懸念が高まる。

そのときの新聞記事には、ジャワ豹はジャワ島のあちこちの国立公園に棲息していて、個
体数は491〜546頭と推測され、森林総面積から一頭当たりの棲息密度を割り出すと
6〜7平方キロにしかならず、スリランカの20〜30平方キロに比べてジャワ豹がいか
に悪条件の渦中に追い込まれているかということが記されていた。

山の奥深くに隠れて生活することを好むジャワ豹も、水や食料を得るために安全な生活領
域を越えることが起こる。かれらの安全領域の外は人間が支配している場所であり、そこ
には食料や水もあるが危険も同居している。[ 続く ]