「ジャワ豹(終)」(2021年01月21日)

ジャワ島にジャワ豹のための安全な生活領域を用意してやることはもはや至難の業になっ
ている。動物保護林や国立公園は十分な広さを持っておらず、ヒョウ同士の縄張り分割に
あぶれた者は人間との競合に向かわざるを得ない。ましてや、保護林や国立公園ですら人
間の活動が行われる場所が増えており、ヒョウの生活領域は細分化される方向に向かって
いる。ヒョウの家族は狭いテリトリーで少ない餌を狩り、成熟した子供たちは近親婚に向
かう。

ジャワ豹がジャワ虎の後を追って絶滅に向かうシナリオはすでに描かれていると言っても
過言であるまい。自然保護関係者は細分化されつつある生活領域を繋ぎ合わせてより広い
行動領域を与えるための通路を用意するよう提言しているのだが、人間が自己繁栄を目指
す経済活動を抑制して野獣のための犠牲をいとわないようになれるのはいつの日のことだ
ろうか。


ところで、ジャワ豹はインドネシア語でmacan tutul Jawaと呼ばれている。macanはジャ
ワ語で虎を意味し、tutulもジャワ語で斑点を意味する。ムラユ語では、虎はharimauで、
インドネシア人の言うmacan tutulはマレーシア語でharimau bintangに該当する。

このジャワ豹の中に黒豹Panthera pardus sondaicaがいる。インドネシア語で黒豹がmacan 
kumbangと呼ばれるのは、kumbangという言葉が甲虫類を指していて、黒光りする外殻のイ
メージをヒョウに当てはめたのが語源だそうだ。

黒豹も斑点豹と同じように、山から下りて来ることがある。1999年10月にはタマン
サファリインドネシアが設けた罠檻に近寄って檻を出入りした黒豹の姿が監視カメラに収
録された。檻の扉が降りなかったので、黒豹は無事にまた闇の中に姿を消している。その
前夜には斑点豹が同じ罠にかかった。

タマンサファリは動物のための食糧も豊富なら、肉食獣の食料になる弱小動物もたくさん
いて、この招かれざる客が夜中にしばしば徘徊することがある。園内で飼育されているワ
ニのための食糧として飼われている鶏がむさぼり食われたこともあるし、飼育動物のワラ
ビーまでが餌食にされた。

2003年にはスカブミ県天然資源保存館チクプ動物保護地区分室が、同保護地区の黒豹
と野牛bantengが絶滅したおそれが高いとの推測を発表した。過去二年間、その姿や足跡
を見た人間がひとりもいないとのことだった。

チクプ地区では、1970年代末に野牛は3百頭いて、保護地区内を集団で移動していた。
1985年にはそれが43から139頭の間にまで減少し、その後なされた調査で25〜
65頭になっていた。しかし分室員が行う地区内の巡回観察でここ数年間、動物本体はも
とより、足跡や排泄物すら発見されていない。黒豹も似たような状況だったそうだ。
[ 完 ]