「伝説のジャワ虎(1)」(2021年01月25日)

スマトラ島にスマトラ虎がいるように、ジャワ島にジャワ虎がおり、バリ島にバリ虎がい
る。いや、ジャワとバリのトラは既に絶滅宣言が出されているから、いたと言わなければ
なるまい。それらのすべては地元原生種とされていて、学名が違っている。スマトラ虎は
Panthera tigris sumatraie、ジャワ虎はPanthera tigris sondaicus、バリ虎はPanthera  
tigris balicaだ。しかしそれらの個別名称については、2017年に国際専門家グルー
プがそれら三種をPanthera tigris sondaicaに統一している。


バリ虎がその三種の中でもっとも小型だった。肉食獣が狩る獲物が小型であれば、肉食獣
自身も小型になるという理論がある。小さなバリ島で暮らしてきたバリ虎は、体躯が巨大
化するほどの食料も生活領域も得られず、小型の獲物を狩ってほそぼそと生きていた様子
を感じさせてくれる。

その結果、頭数の増加もほとんど起こらず、ハンターに狩られるのにまかせて絶滅の急坂
を転げ落ちて行ったのではあるまいか。

トラはバリ語でサモンsamongと呼ばれた。最後のサモンが西バリ地区にあるスンバルキマ
Sumbar Kimaの原野で1925年にハンターに狩られ、それが絶滅の弔鐘になったようだ。
公式絶滅宣言が出されたのは1937年9月27日だった。


ジャワ虎は他の世界中のトラに比べて身体が小型であり、多分バリ虎に次ぐものだったの
だろう。スマトラ虎の方がジャワ虎より大きいのは、生活領域の広さに関係しているので
はあるまいか。

1966年9月15日付けのコンパス紙第一面にトラの話が掲載された。中部ジャワ州ク
ンダルKendal県ボジャBoja郡レジョウィナグンRejowinangunのコーヒー園で、コーヒーの
実を盗む泥棒の被害を防ぐためにトラに番をさせる計画があるという話だ。そこで語られ
ているトラとはジャワ虎とジャワ豹を指している。インドネシア語ではどちらもharimau
やmacanが使われるためだ。

虎も豹も調教のなされた者であり、夜間だけ総面積454Haのレジョウィナグンコーヒ
ー園に放される。経営者はこの計画について「人間が夜警を行っているかぎり、賄賂に呑
まれる可能性があるが、トラの夜警であれば・・・・」とコメントした。かれはそのあと、
何を言おうとしたのか?はたして、「泥棒のほうがトラに呑まれる」と言いたかったのか
どうか?


1966年11月7日のコンパス紙第二面には、またトラの話題が登場している。196
3〜67年の任期を務めた東ジャワ州知事が東ジャワの外貨獲得潜在性調査に訪れた国会
D委員会にこんなことを物語った。「カラパンサピKarapan sapiは絶好の観光資源だ。そ
の競技で競い合う牛を興奮させる妙薬がトラの小便だ。トラの小便で競技はすさまじいも
のになる。必ずや観光の目玉になるだろう。」


1960年代のジャワ島でジャワ虎はまだ保護の対象になっておらず、民衆は狩猟対象と
いう位置付けでジャワ虎を見ていた。1966年のコンパス紙に狩られたジャワ虎の写真
が掲載されている。バニュワギ県グレンモルGlenmoreの農園地帯で猟師に撃たれて死んだ
トラが長い木の棒に両足を縛られて担がれている姿がそれだ。周りにいる人間と大きさが
あまり違わないので、成長しきっていないトラだったのかもしれない。当時、グレンモル
地区にはその世界で名の知れた腕利きの鉄砲猟師が十数人住んでいた。[ 続く ]