「伝説のジャワ虎(3)」(2021年01月27日)

2002年7月には、ヨグヤ特別州グヌンキドゥル県プラワンPelawan洞窟の壁に残され
た野獣の爪痕が発見され、トラではないかとの期待が盛り上がったが、確定できないまま
になっている。

西ジャワ州チクライCikurai山腹にテレビ電波中継塔が建てられており、その辺りは深い
森林になっている。山麓住民はしばしば、夜になるとその一帯にトラがもっと上の方から
下りて来ると語っている。ガルッ県パムンブッにあるサンチャンSancangの森周辺住民も、
神秘的能力を持つトラの話をし、トラは今でも下界に下りて来ると語る。

毛が見つかれば好都合なのだそうだ。DNA検査で科学的に立証できるのだから。だが、
絶滅宣言後にもたらされた情報の中で、ジャワ虎の実在を証明できる科学的な証拠はいま
だに得られたことがない。ところがインドネシア科学院LIPIの動物学専門家は、それ
らの情報の中に正しいものが必ず混じっていると考えている。かれはジャワ虎民間愛好者
が結成したジャワ虎保護民間グループを指導しており、そのグループが収集した諸情報の
中にジャワ虎がまだ生き残っていることを確信させるものが混じっていると見ているので
ある。

1995年と1996年に殺されたトラの皮の切れ端が中部ジャワで入手されている。ま
た東ジャワで1996年に殺された若いトラの歯が手に入った。メルブティリ国立公園内
で1997年にトラの足跡と毛が見つかり、2004年には排泄物と爪痕が見つかってい
る。爪の間隔が4センチを越えているその爪痕と類似のものが東ジャワのラウンRaung山
と中部ジャワのスラムッ山で1999年に見つかっている。2000年に東ジャワのアラ
スプルウォAlas Purwo国立公園で発見されたトラの毛はLIPIの検査機関によって真正
のトラであると判定されている。2004年にメルブティリで発見されたトラの毛も検査
結果が真正のトラであることを示している。

1998年にはメルブティリで殺されたトラが7百万ルピアで売りに出ている情報が得ら
れており、また2004年には生け捕られたトラの子供が生きたまま売りに出されている
情報も手に入った。そして、トラ捕獲の闇仕事を行っている人間が「数千万ルピアでトラ
を持ってきてやる」と保護グループのひとりに語っている。

「絶滅したと宣言されたために、まだ存在している者が自由に狩られることになった。絶
滅した者に法的規制がかけられないからだ。絶滅宣言が出されたために残った者が本当に
絶滅に向かうのなら、こんな皮肉なことはない。関係者が力を合わせて調査を行えば、ジ
ャワ虎の真の姿が明らかになり、保護の方法が見つかるはずだ。」ジャワ虎保護民間グル
ープのひとりはそう語っている。このグループは公的な資金援助や学識の支援などなしに、
ジャワ虎の保護を目指してすべて自力で活動を行っている。LIPI専門家も個人として
そこに参加しているにすぎない。


昔からジャワ島でトラ狩りはゲームとしても行われたが、治安維持を目的にしても行われ
た。1872年にトゥガルTegalでトラの首にひとつ3千フルデンの賞金がかけられたこ
とがある。そのときは十数頭のトラが狩られたようだ。

トラが人間を襲う事件は頻繁に起こった。「サイジャとアディンダ」の物語にも子供のサ
イジャがトラに襲われるシーンがある。人間社会の安全を優先しようとするとき、トラ狩
りは当然の帰結になった。だが農民がトラを害獣視したかというとそうでもなく、田畑を
荒らしにやってくるイノシシを退治してくれるために、農民社会にはトラへの恐れと敬意
が同居していた。[ 続く ]