「バタヴィアのおぞましい水(3)」(2021年02月01日)

VOC時代にバタヴィアに駐在したヨーロッパ人の病気による死亡率はきわめて高いもの
だった。すべてが病気によると言えないまでも、バタヴィアの病院で1714年から17
76年までの間に死亡した患者は8万7千人にのぼった。病気による死者の中にも、もち
ろんマラリアのような飲用水が原因でないものも含まれていたとはいえ、汚染水の飲用に
よるコレラ・チフス・ジフテリア・赤痢などの死者も大きな数にのぼっていた。

総督でさえ病魔から逃れるすべはなかったのである。ちなみにバタヴィアで在任中に死亡
したVOC総督のリストがこれだ。かれらの死因が逐一明確に分かっているわけではない
のだが、アブラハム・ファン・リーベーク第18代総督は赤痢で死亡している。
第6代 Jan Pieterszoon Coen
第9代 Antonio van Diemen
第11代 Carel Reyniersz
第12代 Joan Maetsuycker
第14代 Cornelis Janzoon Speelman
第18代 Abraham van Riebeeck
第19代 Christoffel van Swoll
第21代 Mattheus de Haan
第23代 Dirk van Cloon
第24代 Abraham Patras
第28代 Jacob Mossel
第29代 Petrus Albertus van der Parra
第30代 Jeremias van Riemsdijk
第31代 Reinier de Klerk
第33代 Pieter Gerardus van Overstraten

植民地政庁に代わってからは、在任中に死去した総督はふたりだけで、しかもボゴールと
スラバヤで亡くなっており、バタヴィアではひとりもいない。


バタヴィアはその初期から終末に至るまで病魔に魅入られた町であり、その主要な原因の
ひとつが飲み水だった。特にコレラ禍は繰り返しこの町を襲い、たくさんの犠牲者を連れ
去った。18世紀に作られた手紙の中に、一日に親戚・友人・隣人を運ぶために何回も墓
地に足を運ぶような日もあった、と書かれている。

細菌学が発達する前の時代に、飲み水が病原菌に汚染されること、煮沸すれば菌が死ぬな
どといったことを知っている者はいなかった。現象的に、熱い茶を淹れて飲む華人に内蔵
を患って死亡する者が少ないことを知ったオランダ人が「茶葉が病気予防に効験あらたか
なのだ」と言い出して、何を勘違いしたか大勢が茶葉をムシャムシャ食い始めたために、
茶葉がやたらと売れるようになったという話もある。

その一方で、井戸が可能な者は井戸を持ったが、バタヴィア住民の大半はチリウン川の水
を汲み置きしたり、雨水をためて置いて、それらを生で飲んだ。1744年以来バタヴィ
アの病院では、患者が生水を飲むことは許されず、飲むのは茶またはコーヒーだけに制限
された。ヤコブ・モッスル第28代総督は1753年に医師の提言を受け入れて、バタヴ
ィア住民にお触れを出した。汲み置いた飲み水はできるかぎり別の容器に移し替えて不純
な水を減らすことを励行せよ。そうすればそのまま飲むことができる。[ 続く ]