「スマトラトラ(4)」(2021年02月04日)

リアウのマンイーターに関して、その捕獲を手伝ったサファリパークインドネシアの専門
家は、事件の原因をたどって行くなら、人間の行為が根底にある、と語る。人間の行って
きた森林開発や伐採、あるいはトラの食料である鹿・イノシシ・サルなどの狩猟がトラの
生存を困難にしている。トラは本来、人間を恐れるために森林の奥深い自分の生活領域か
ら出て来ようとはしない。だがそこで暮らせなくなったら生存のために人間の生活領域で
狩りをせざるをえない。そこには牛羊鶏などの家畜がいるのだから。そのときに人間が居
合わせれば襲われることも起こる。

このリアウでの事件についてかれは、5人の人間が襲われてトラに食われた者もあり、ま
た部落民が別のトラを捕まえて食ったことについても、だれが良い悪いということでなく、
すべてが不幸な事件だったとコメントしている。


2003年、リアウ州天然資源保存館はドゥマイ市とロカンヒリル県周辺に棲息している
野生トラ6頭の人間とのコンフリクトを回避するために、トラを捕獲して飼育場に移した。
1998年には200頭いた州内の野生トラは83頭に減ってしまい、そのうちの6頭が
捕獲されたのである。住民が捕獲したトラもあれば、保存館が捕獲したものもある。中に
は村道から10メートルしか離れていない場所に置いた罠にかかったトラもいて、トラが
いかに部落の近くまでやってきているかをそれが明白に物語っている。

リアウ州の自然保護民間団体によれば、2001〜02年に起こった人間とトラのコンフ
リクトは11件で、2002〜03年が17件、その17件で人間が14人死にトラは6
頭が死んだ。トラが捕獲されて健康状態が調べられるたびに、トラの身体がいかに不健康
な状態にあるかが露呈する。爪や歯がみんな野生トラ本来の頑健な姿をしていないのであ
る。

2003年10月8日、ロカンヒリル県スガイダウン村パニパハンの森に入って丸太を集
めていた内のひとり18歳の青年がトラに襲われて死亡した。かれらは森に入ってキャン
プしながら仕事を5日間続け、その間トラの気配がまったくなかったため、こんなことに
なるとは少しも思わなかったと語っている。「われわれは昔から何度も森に入って仕事し
てました。この森にトラがいることはもちろん承知してました。でもトラが人間に対して
こんなに攻撃的になったのははじめてです。」

WWFの意見によれば、パニパハンの森に入ること自体がすでにトラの生活領域への過度
の侵入を意味しているとのことだ。トラの生活領域が狭められることはトラにとって食料
の減少を意味しているのである。


トラの皮や解体パーツの闇商売は衰えを知らない。はいだばかりのトラの皮は8百万ルピ
ア、乾燥させてからトラの姿に復元させたものなら2千5百万ルピアになる。WWFイン
ドネシア上級スタッフはトラ狩りがいかに大きな経済活動を生み出しているかについて、
こう語る。

トラの骨や爪は超能力を持っていると信じられていて、特にtulang layangと呼ばれる骨
を見に着けると強い力が備わり、勇気と自信が湧いてくると考えられている。そのために
この骨はtulang beraniとも呼ばれている。

しかしその部分以外の骨も爪も、トラのような強さを自分にもたらしてくれると大勢の者
が信じているため、トラの骨や爪の需要も小さくない。それらを加工して装飾品にしたも
のをつけたペンダントやブレスレットをかれらは身に着ける。

強いオスとしての姿を村人が示せば、その雄々しさを村のだれもが賞賛し、自分に一目も
二目も置いてくれる。村のジャゴアンになれるのである。そのような迷信がトラを殺すこ
とに一役買っている。言うまでもなく、皮・骨・爪・ひげなどはトラを殺さなければ手に
入らないのだから。[ 続く ]