「スマトラトラ(6)」(2021年02月08日)

2007年5月初め、ブンクル州北部クタフン郡スバユル村のゴム園でトラが一頭捕獲さ
れた。このトラはムルチュブアナ社ゴム園に仕掛けられた密猟者の罠にはまっていたもの
で、住民がそれを4月30日に発見し、地元軍管区司令部と警察に届け出た。連絡を受け
た天然資源保存館がすぐさま出動して体長ほぼ2メートル体重100キロのメスのトラを
保護した。推定4歳と見られるそのトラは罠にかかったときに足の裏に怪我をし、また脱
水症状を起こしていたため、弱々しい様子で檻に移され、治療を受けてから天然資源保存
館のパトロールカーでおよそ80キロ離れたクリンチセブラッKerinci Seblat国立公園ま
で5月10日の夜に運ばれた。

このトラがはまった罠は明らかにトラを捕獲するために作られたものであり、密猟者がト
ラを狙って行ったことは明白だった。体調が回復すれば、このトラは国立公園に放される
ことになる。公園内に棲息している野生のトラは200頭に満たないそうだ。


2008年1月26日、西スマトラ州ブキッバリサン山岳部でおとなの男性の死体がふた
つ2キロほど離れた場所で見つかった。それらの遺体が発見される前に、その地域一帯で
トラによる家畜の被害がいろいろと出ていたことから、そのふたりも同じトラの被害者で
はないかと推測されている。

現場を調べた天然資源保存館職員は、現場にトラの足跡があり、被害者の身体につけられ
た傷の様子もトラが加害者であることを十二分に推測させるものだ、と語っている。被害
者はふたりとも片方の頬の肉がなくなり、また手の指あるいは足の指がなくなっているが、
トラは殺した被害者の肉をまったく食べていない。天然資源保存館はすぐにこの殺人トラ
捕獲のためのタスクフォースを出動させて対応に当たるとのことだ。

西スマトラ州では住民のイノシシ狩りが盛んで、それがブキッバリサンに棲むトラの食料
不足を招いているおそれが高い。トラは食料が満ち足りているかぎり、人間の生活領域に
やってくることはきわめて可能性が低いが、この現象からかれらが食料不足に追い込まれ
ていることが想像される、と関係者は語っている。


2008年7月16日、ジャンビ市警本部に情報が入った。クリンチセブラッ国立公園の
外縁森林からからトラの皮や骨を市内自宅に運んできた者がいるというタレこみに、15
人ほどの捜査員が緊急出動した。13時ごろ、ジャンビ市内のコスを急襲した警察はMを
逮捕した。Mは森林の保安を預かる公務員だった。その自宅で押収されたものは保存処理
のなされた大きいトラの皮一枚とトラの骨一式などで、そのトラは解体されてまだ間もな
いものと推測された。Mはそれを誰に売ろうとしていたのかについて、黙秘している。

トラの骨は国際闇市場に流されるのが通例で、1996年には韓国でスマトラから送られ
たトラの骨100キロが発見され、2005年には台湾でスマトラトラの骨や頭骨など1
40キロが発見されている。[ 続く ]