「ヌサンタラのライオン(7)」(2021年03月12日)

トラの群れがトゥルンガグンの森の中を哨戒しているとき、プジョンゴ・アノムの使節団
がやってきたのである。その行く手をトラ戦闘部隊がふさいだ。この先へ進むことはまか
りならぬ。きびすを返して立ち去れ。

プジョンゴ・アノムは交渉した。われわれはクディリへ行くためにここを通り抜けるだけ
だ。この森の住民に危害を加えるようなことは決してしない。

だが交渉は決裂して戦いが始まった。バンタルア~ギンの軍勢も強いがトラの群れも強い。
互いに犠牲者が増えるばかりで、戦線は膠着状態になった。プジョンゴ・アノムはプラブ
・スウォンドノに急使を送り、事態を報告させた。プラブ・スウォンドノは怒髪天を衝き、
サマンディマンの鞭を手にするや、護衛兵に出動を命じ、自ら馬に乗って駆け出した。

戦場に到着すると、プラブ・スウォンドノはサマンディマンを抜き放ち、地面に一打ち二
打ちするのももどかしく、敵の大将めがけて鞭を振るった。サマンディマンの神通力は地
面に一打ちするだけで雷の轟きを発し、地面が揺れ動く。その威力にシ~ゴバロンはすく
みあがった。鞭を数発からだに受けると、シ~ゴバロンは戦闘意欲を失って地面に寝そべ
り、プラブ・スウォンドノに命乞いをした。

どうか生命ばかりはお助けください。わが身は生涯あなた様にお仕えし、わが子孫もあな
た様の子孫に永遠にお仕えすることを誓います。プラブ・スウォンドノはその言葉を聞き
入れてシ~ゴバロンを赦し、魔界の野獣たちは一旦その場を立ち去った。

とんだ邪魔が入って時間を浪費してしまった使節団一行は、既に無傷の貢納品もなくなっ
てしまったことから、プジョンゴ・アノムがひとりでクディリに急ぐことになった。かれ
ひとりなら、白ヤマアラシの術で地中をくぐり抜けてクディリに行くことができる。


山の奥深い場所にいたスナン・ラウは東の方で轟いた鞭の音を聞いた。あれはサマンディ
マンの音だ。スウォンドノめ。わしの許しも得ずにサマンディマンを使いおったな。ひと
つ懲らしめねばなるまい。

スナン・ラウの瞑想の中に、スウォンドノに関わる状況が丸見えになった。スナン・ラウ
は元々スウォンドノに期待をかけていたのである。この男は天下を取る人間だ。だがバン
タルア~ギンの地におさまってしまえば、小成しか得られない。クディリの姫をもらって
バンタルア~ギンの領主ふぜいになるのであれば、わしの期待はもう終わりじゃわい。

スナン・ラウは魂を肉体から解き放つ術を使ってクディリに飛んだ。そしてソンゴ・ラギ
ッ姫の体内に入ると、プジョンゴ・アノムが来るのを待った。やってきたプジョンゴ・ア
ノムはクディリ王に正使としての口上を述べ、貢納品がすべておじゃんになったことを説
明した。クディリ王は近年とみに名声の高まっているプラブ・スウォンドノを婿にできる
ことを諒とし、本人の気持ちを確かめるために姫をその場に呼んだ。

やってきたソンゴ・ラギッ姫は頬を染めてうつむきながら語った。もしもプラブ・スウォ
ンドノがわたくしの望むことを聞き届けてくださるのなら、わたくしは喜んでプラブの妻
となり、王妃となりましょう。もしもこれを成し遂げてくださるのなら。

一、花婿行列は魔界の端からクディリのアルナルンまで、地下を通ってくださいな。
ニ、花婿行列の演じ物は、これまでこの世のどこにもなかった芸で愉しませてくださいな。
三、行列に付き添う騎馬兵は、騎乗が達者で勇猛果敢な若者たちで、すべて見目麗しい者
を144人そろえてくださいな。

これはスナン・ラウの魂が姫に言わせたことであり、もちろん姫はそれを自分の考えだと
思って話している。[ 続く ]