「ヌサンタラのライオン(8)」(2021年03月15日)

プジョンゴ・アノムはこの成り行きを急いでスウォンドノに報告した。スウォンドノは取
り巻きを全員招集して相談した。シ~ゴバロンも、バンタルア~ギンの地を開いた三人の聖
者もそれに加わった。

一、三人の聖者はそれぞれがワロッグループを率いる。
ニ、シ~ゴバロンと孔雀はムラッバロンMerak Barongになる。
三、プジョンゴ・アノムは騎馬の達者な見目麗しい144人の若者を率いて、整然たる動
きを見せる。そのよく整った軽快な動きはジャティランと呼ばれるようになった。

こうして花婿行列の準備が整えられている間、地下道作りが進められたのだが、どうも進
捗状況がぱっとしない。プラブ・スウォンドノは秘宝サマンディマンの鞭を使うことにし
た。鞭を打ち鳴らして大地を揺さぶれば、地下道作りが楽になる。

ところが大地が震動したとき、スナン・ラウがどこからともなく現れた。二度も師の戒め
を破れば、ただではすまない。スナン・ラウはプラブ・スウォンドノに、汝の未来を選択
せよと迫った。
一、現世から来世に至るまで、バンタルア~ギンの全住民ばかりか他の地でも永遠にその
名がほめたたえられ、あらゆる人間に尊敬され、誉として語り継がれる。
ニ、ソンゴ・ラギッ姫を妃にするが、子供は得られず、バンタルア~ギン王国は消滅し、
歴史すら残らない。

その難問に、その場の空気は一瞬にして凍り付いた。全員の視線がプラブ・スウォンドノ
の口元に集まる。スウォンドノはおもむろに口を開いた。師よ、わたしは一を選びたい。
その理由は、わたしが終世の名誉を得たいがためにあらず。バンタルアギン王国が滅びる
ことは、わたしひとりが滅びるのでなく、かれら全領民が滅びることを意味している。ど
うしてわたしにそんなことができようか。

凍り付いた空気は歓呼の声となってはじけた。スナン・ラウは周辺にいるひとびとに尋ね
た。ほんとうにそれで良いのか?おまえたちが苦労して準備してきた花婿行列のすべてが
パーになるのだぞ。歓呼の声はもう一度、その答えを叫んだ。「ストゥジュウ〜!」
しかし花婿行列の趣向はパーにならなかったのである。ひとびとは祝祭のたびに、その趣
向を再現したのだから。その伝統は今日までも絶えることなく続けられている。


そのレオッポノロゴにかなりよく似た芸能がポノロゴからまっすぐ100キロほど北に離
れたブローラBloraでも演じられている。ブローラの舞踊劇はバロ~ガングンボンアミジョ
ヨBarongan Gembong Amijoyoと呼ばれ、それに登場するトラの王シ~ゴバロンは人間の化
身という筋立てになっている。ブローラに伝わるバロ~ガンの由来物語では、地方領主を
意味するアディパティAdipatiのグンボン・アミジョヨという人物がトラの大王シ~ゴバロ
ンに変身してクロノ・スウォンドノと戦う話になっているのだ。

舞踊劇にはレオッで見られるようなシ~ゴバロンの巨大なバロ~ガンも登場するが、それに
随順する多数のトラの子分たちも出演する。トラの子分たちは日本の獅子舞のような面を
かぶって群舞を繰り広げるので、レオッに劣らない面白さがある。

ポノロゴでは、舞踊劇はレオッと呼ばれ、バロ~ガンはシ~ゴバロンのコスチュームを指し
ていたが、ブローラでは舞踊劇そのものがバロ~ガンと呼ばれていることに注目するべき
だろう。このバロ~ガンという言葉をKBBIで調べると、「ショーとして、singaなどの
野獣に似せた扮装で、中に人間が入って動かすもの」となっている。これだとバリ島のバ
ロンダンスそのままの説明になってしまうように思われるのだが、バリではバロンダンス
をバロ~ガンという類語で呼んでいる印象があまりない。[ 続く ]