「ヌサンタラのライオン(9)」(2021年03月16日)

ならば、とKBBIでバロンの語義を調べると、チャロンアランの物語劇で演じられる、
野獣(singa)の面と衣装を用いた踊りで、二人の人間が頭と尻に入って行う、と説明さ
れている。しかもバリ語由来のインドネシア語として採録されているので、どうやらバリ
人はバロンダンスをバロ~ガンと呼ばない雰囲気が感じられる。

ちなみにヌサンタラのバロン芸能の一覧表があって、それを見ると次のように記されてい
る。( )内はその芸能の中心地または由来地。
Barong Bali (Bali)
Barong Loreng Gonteng (Kendal)
Barong Gondorio (Grobogan)
Barong Kemiren (Banyuwangi)
Barongan Dencong (Jepara)
Barongan Singo Karya (Demak)
Barongan Gembong Amijoyo (Blora)
Barongan Gembong Kamijoyo (Kudus)
Barongan Juwangi (Boyolali)
Reog Ponorogo (Ponorogo)
Reog Banjarharjo (Brebes)
Reog Sunda (Bandung)
Bebegig Sumantri (Ciamis)
Hudoq (Kalimantan Timur)
Singo Ulung (Bondowoso)
Burokan (Cirebon)
Ondel-Ondel (Jakarta)
Badawang (Sunda)

わたしの語体験では、ジャカルタを含むジャワ島で耳にしたバロ~ガンとは巨大な大入道の
ような衣装や張りぼての中に人間が入って動き回るものを指している印象が強い。ブタウィ
のオンデロンデルがその典型例だ。上のリストの最後三つはそのたぐいであり、その前の一
連のものは巨大なものを人間が担いだり、中に入ったりして動かすものという点に共通性が
あるだけだ。それらがバロン芸能という言葉で一括りにされているのだから、バロ~ガンと
呼ばれるものの姿が必ずしも獅子やトラであるとは限らないことになる。バロ~ガンという
言葉に獅子のイメージを常に重ね合わせると、すれ違いが起こる可能性は大きいだろう。


さて、ブローラでのシ~ゴバロンの物語はどうなっているのだろうか?これはブローラ県
庁のホームページから得た内容であり、県がこれをオーソライズしているものと思われる。

バンタルア~ギンのアディパティ・クロノ・スウォンドノはクディリ王宮の王女デウィ・
スカルタジDewi Sekartajiを妻に得たいと思い、宰相プジョンゴ・アノムを使者に遣わし
た。プジョンゴ・アノムは四人の隊長に率いられた144人の騎兵部隊を従えて出発した。

魔界の地ウンクルの境界まで来た時、一行は境界の防備を厳しく命じられていた領主アデ
ィパティ・グンボン・アミジョヨの軍勢に行く手を阻まれた。グンボン・アミジョヨはト
ラの王シ~ゴバロンに変身してバンタルア~ギンの軍勢をなぎ倒し、騎兵部隊は全滅した。
四人の隊長はほうほうの態でアディパティ・スウォンドノへの報告に走った。

一方、ジュンガラJenggalaの王子ラデン・パンジ・アスモロ・バ~グンRaden Panji Asmara 
Bangunもデウィ・スカルタジを妻に求めようとして、王子の付き人ふたりをクディリ王宮
に派遣した。ふたりは逆の方向からウンクルを通ってクディリに行こうとしたのだが、そ
ちらの境界でもシ~ゴバロンが行く手をふさいだために戦いが起こった。このふたりも形
勢不利になり、クドゥンスレ~ゲ~ゲKedung Srengengeにいる兄弟弟子のジョコ・ロドゥロ
Joko Lodroに応援を求めた。[ 続く ]