「ヌサンタラのライオン(10)」(2021年03月17日)

シ~ゴバロンも三人に攻められてはたまらず、ついに倒されて生命を奪われた。ところが、
グンボン・アミジョヨは不死身の術を持っていたのである。再び生き返って戦いを仕掛け
て来られては、三人もたまらない。王子の付き人はこの大問題を報告するために王子のも
とへと走った。怒った王子はシ~ゴバロンと対決するために出発した。

一方、自分の軍勢が敗れたとの報告に怒髪天を衝いたクロノ・スウォンドノは秘宝サマン
ディマンの鞭を携えて戦場に駆けつけ、シ~ゴバロンに勝負を挑んだ。さすがにサマンデ
ィマンの鞭が持つ神通力にはかなわず、シ~ゴバロンは倒されたためスウォンドノに命乞
いをし、随身することを誓ったので許されてその配下になった。

遅れてやって来たバンタルア~ギンの軍勢を率いてスウォンドノはそのままクディリに向
かうことにした。プジョンゴ・アノムやシ~ゴバロンも一行に加わり、クディリのアルナ
ルンまでやってきたところで、アスモロ・バ~グンの一行と鉢合わせになった。アスモロ
・バ~グンはウンクルでシ~ゴバロンを探したのだが見つからず、そのままクディリまでや
ってきたのである。

こうなれば、ただで済まないのは武人の定め。ましてや恋のさや当てが上乗せされている。
クロノ・スウォンドノとアスモロ・バ~グンの一騎打ちが始まった。そして最終的に、勝
利の女神のほほえみはラデン・パンジ・アスモロ・バ~グンの頭上にきらめいたのである。

クロノ・スウォンドノはあえなくクディリのアルナルンで生涯を閉じた。バンタルア~ギ
ンのひとびとは領主が倒されたのだから致し方がない。プジョンゴ・アノムを含めて全員
がアスモロ・バ~グンを支配者に仰ぐことになった。アスモロ・バ~グンはそれを許したが、
シ~ゴバロンだけは別だった。アスモロ・バ~グンはシ~ゴバロンに呪いをかけて永遠にグ
ンボン・アミジョヨに戻れないようにし、その上でシ~ゴバロンが随身することを許した
のである。

アスモロ・バ~グンとデウィ・スカルタジの結婚の祝祭には、クロノ・スウォンドノを除
いた上述の登場人物がすべて加わって楽しく陽気に踊り狂った。その伝統がブローラに残
されて、現在にまで受け継がれている。だから、ポノロゴのレオッにはクロノ・スウォン
ドノが登場するが、ブローラのバロ~ガンにクロノ・スウォンドノは出て来ないのである。


バリ島のバロン上演が神事とされているのは、霊界の者たちがまとわりつくがためにそう
なっているのかもしれない。バロンが観客を楽しませるための演じ物として始まったのは、
19世紀にクルンクンの王が所望したことに端を発していると言われている。しかも話の
内容がチャロナランCalonarangであるなら、それはアイルランガ王にまつわる物語であり、
古代ジャワの故事に多くを倣った可能性は小さくないと誰しも思うようだ。ワロッの修行
方法や規律、男の生き方の規範や種々の術をマスターする手順などはバリ人のものときわ
めて類似しており、古代ジャワ文化がいかにバリ文化の中に浸透したかということをそれ
が物語っている。

こうして、バリのバロンはレオッポノロゴを土台にしたものだという説が有力になった。
バリのバロンがレオッから受けた影響として、レオッのバロ~ガンから孔雀の飾り物を外
した形がバリのバロンと同じであり、ランダRangdaの装束はブジャンガノンそっくりであ
るといった点が語られている。

もちろん、レオッポノロゴとバリのバロンダンスが似ても似つかない様式で演じられてい
るのは、その通りだ。レオッのシ~ゴバロンが踊り狂うとき、バリのバロンは静かにゆさ
ゆさと繊細な動きをキープする。ストーリーが、様式が、動きが、バリ人のものとして作
り上げられたとき、ジャワのものとはまったく別種のものが完成されて行ったのだろう。

われわれはそこに、バリ人とジャワ人というまったく性格の異なるふたつの種族の特徴を
垣間見ることになるのである。チャランポランと言うか自由奔放で明るく陽気なジャワ人
と、しかつめらしく冷静で規律を尊重しようと努めるバリ人の違いは、まるで水と油のよ
うに見える。[ 続く ]