「ヌサンタラの渡り鳥(1)」(2021年03月24日)

毎年9月末から12月にかけて、北半球高緯度地域から南半球へ渡り鳥がやってくる。厳
寒が鳥の生活環境に困難をもたらし、更に餌が得られなくなるために避寒しなければ生き
ていけない。鳥の中には肉食鳥もいる。特にかれらは餌になる動物が冬眠するため、食物
連鎖が分断されて生存がおびやかされることになる。
そればかりではない。生殖パターン、縄張りと食物争奪パターン、地理的分布パターンな
どが激しい気候変化の影響を受けて種の存立すら脅かされるために、かれらは南の地を目
指して飛び立って行くのである。
渡り鳥の移動は集団で行われる。数千羽の鳥が大空の一角を埋め尽くすのを見るのは実に
壮観なものだ。自己の本能と自然の中の道標だけを頼りに、生命を賭けて数千キロの距離
を踏破するかれらの姿は、大自然の偉大さをわれわれに教えてくれる。
渡り鳥の移動の季節になると、たくさんあるルートのそれぞれを数カ月にわたって数万羽
の鳥が通過して行くのである。

渡り鳥の移動パターンはさまざまだ。シベリアからオーストラリアまで移動するものもい
れば、ほんの数十キロ離れた近場に移るだけのものもいる。南北の大陸間を移動するもの
はインターコンチネンタルと呼ばれる。かれらは移動の途中で中継地に降りて羽を休める。
インドネシアの各地の森林は大昔からかれらに休憩場所を提供してきた。
インターコンチネンタルでも、もう少し短い距離を移動するだけのものたちもいる。その
大陸から出ないで移動する鳥は、元の棲息場所と地形上でよく似た気候のよい土地へ移る
パターンと、高地高山から平地へ降りてくるパターンがある。そして移動距離のもっとも
短い鳥は、同一地域内のある島から別の島へ移ったり、大都市の東の山地に棲んでいるも
のが西側の森林地帯に移るといったパターンまでいろいろだ。
この渡り鳥の移動は北半球が冬になるから行われるのだが、何を勘違いしたのか、5〜8
月に熱帯地方にやってくる種もある。おまけに、その種はマレーシア目指してやってくる
のだが、中の一分派はスマトラやジャワにまで足を延ばしてくる。この迷子渡り鳥がなぜ
そのようなことをしているのか理由は、まだよく分かっていないようだ。

世界には312種の肉食鳥がいるとされている。インドネシアにはそのうちの69種がい
て、中の26種はインターコンチネンタル型渡り鳥、そしてその中の2種が迷子渡り鳥で
ある。
インドネシアにやってくる肉食鳥渡り鳥はほとんどがマレー半島経由とフィリピン諸島経
由のどちらかのルートを通る。他にはインドのニコバル諸島経由で渡って来ると推測され
ている鳥もいる。
マレー半島経由で来る鳥は、リアウ諸島のベンカリスBengkalis県ルパッRupat島に入り、
そこから南東にスルカSerka川を抜け、南スマトラのムアラバニュアシンMuara Banyuasin、
シンパンガガスSimpanggagas、スンビランSembilang川を経て東ランプンに達し、バコフ
ニBakauheniからバンテンBanten湾のプロドゥアPulau Duaに来ると考えられている。
バンテン湾まで来た鳥たちは、ハリムンHalimun山系を越えてボゴールの町とプンチャッ
峠を眼下に見ながらバンドン市の北と南の二方面に分裂してバンタルジュッBantarujeg経
由チルマイCiremai山に向かう。
そこからメイングループはスラムッSelamet山⇒ディエンDieng高原⇒スンビンSumbing山
⇒ムラピMerapi山ムルバブMerbabu山エリアに至り、更にまたアルジュナArjuna山⇒アル
ゴプロArgopuro山そしてスムルSemeru山を越えて分裂する。大きい方の集団は更に東方の
バリ島を目指してメルブティリMeru Betiriを通過し、小グループの方はバニュワ~ギ県ア
ラスプルウォAlas Purwoのサドゥ~ガンSadenganやプルンクンPlengkungに立ち寄る。
[ 続く ]