「ヌサンタラの渡り鳥(終)」(2021年03月30日)

ならば、人間の生活領域の凝集体のような都会は渡り鳥にとって完璧無縁の土地なのだろ
うか?かれらはジャカルタに寄り付きもしないのだろうか?ジャカルタが大集団のやって
くる中継地になることはありえないが、渡り鳥の中にジャカルタ一帯で冬を越すものがい
るのである。シベリアからやってきたアカハラダカやツミのいくつかの個体が雨季の間、
ジャカルタの上空を飛んでいる。

かれらの集団はチブブルCibubur方面からデポッDepokのインドネシア大学キャンパスの森
林に飛来し、更にラグナンRagunanの動物園一帯の森へと向かう。だがそれらのいずれに
せよ、先住鳥の縄張りが作られているわけで、既に餌の激減している狭い生活領域を奪い
合うことはせず、グループのマジョリティはジャワを去ってヌサトゥンガラやカリマンタ
ン方面へ移動して行く。
「ジャワ島では、餌の争奪面で渡り鳥は地元の肉食鳥と競争できないため、もっと条件の
良い土地へ移動する。一二羽程度のほんのわずかな個体だけがジャカルタ近辺に残ってシ
ベリアへ戻るまで生活する。」ジャカルタ鳥観察コミュニティ役員はそう語っている。

肉食鳥だけでなく、シベリアから来た他の鳥の中にも、ジャカルタで冬を越すものがいる。
マミジロキビタキFicedula zanthopygiaの姿をわれわれは北ジャカルタ市ムアラアンケ動
物保護地区で10月から3月ごろまでの間、目にすることができる。


ジャカルタでは昔、ブンチョウPadda oryzivora (インドネシア名gelatik jawa)、オウ
チュウDicrurus macrocercus(インドネシア名sri gunting)、シロガシラトビHaliastur 
indus(インドネシア名elang bondol)などが地元の鳥として民衆に愛され、地域行政が
マスコット鳥に取り上げた。南ジャカルタ市はブンチョウを市のマスコット鳥に指定し、
東ジャカルタ市庁はオウチュウを市のシンボルにし、シロガシラトビは都庁が首都ジャカ
ルタのマスコットに取り上げている。

シロガシラトビは昔、南ジャカルタのパサルミングPasar Mingguでもごく普通に見られた
鳥だったというのに、今ではスリブ諸島へ行かなければ野生の姿を見ることができない。
ブンチョウやオウチュウはまったく姿を消してしまい、野生の姿を目にするのはもう不可
能になっている。

そんな状態のジャカルタに渡り鳥がやってくるのは、たいへんありがたいことだと鳥類保
護関係者は考えている。ジャカルタが一部の渡り鳥の通過ルートになっていることが明ら
かになったのは比較的最近のことだ。

その渡り鳥が立ち寄ることのできる場所はチブブルのキャンプ場一帯の森林地区、インド
ネシア大学デポッキャンパスの森林、ラグナン動物園、カリバタ英雄墓地そしてムアラア
ンケなどしかなく、それらの場所の維持と充実に行政がもっと関心を持つよう関係者は呼
び掛けている。

都心部にも森林はある。モナス公園、大統領宮殿、バンテン広場、イスティクラルモスク、
メンテンのスロパティ公園、クマヨランなどの森が存在しているのだが、それらの間を自
動車専用道や大通りが通っていると、大型の鳥以外はそこを飛び越えることができず、小
鳥は閉じ込められた空間の中で飛び交うだけになる。

ともあれ、年間の一部分であっても渡り鳥がジャカルタに姿を見せてくれるのは、確かに
ありがたいことだ。だが、かれらがジャカルタを通過ルートに選ばなくなったとき、ジャ
カルタは自然から見放されたことになる。そんな日がやってこないことを祈るばかりだ。
[ 完 ]