「イギリス人ウォレス(7)」(2021年04月19日)

翌日、ウォレスはデンマーク人商人の同伴でマカッサル行政長官を表敬訪問し、長官の丁
重な歓迎を受けた。ウォレスは長官とフランス語で会話した。オランダ人高官はみんなフ
ランス語を達者に話す。

ウォレスは街中から2マイルほど離れたメスマン氏の持ち家に住んだ。小さいコーヒー園
や畑があり、メスマン氏の住むカントリーハウスから1マイルほど離れている。家は高床
式の竹造りで7フィートの高さがあり、地階は半ばオープンになって台所などもある。こ
の家の周囲にある小屋はメスマン氏の雇い人が住んでいる。

ところがその近辺には野生の生き物が閑散としていて、そこでいくら頑張ってもたいした
採集はできない。遠出しなければならなくなったために、ウォレスは行政長官を訪れてゴ
アGoa王国のラジャ宛の紹介状を書いてもらった。この人物の自由な行動を許し、身柄の
安全を保障するように要請するという内容の手紙だ。

長官はすぐに手紙を書いてくれ、メッセンジャーを呼んでウォレスに同行するよう命じた。
ウォレスはメスマン氏に付き添われてゴアの王宮に行った。メスマン氏はゴアのラジャと
親しいとのことだ。

王宮に着いたとき、ラジャは外にいて、上半身裸で建物が立つのを見ていた。西洋人のた
めに椅子がふたつ用意されたが、王の家臣や従者たちは全員地面に座っている。メッセン
ジャーがラジャの足元にひざまずいて長官の手紙を差し出すと、秘書の者が封を開いて手
紙をラジャに渡した。ラジャは一読してからそれをメスマン氏に渡し、ふたりの間でマカ
ッサル語の会話がなされた。メスマン氏はウォレスが必要としていることがらを細大漏ら
さず話し、許可はすぐに下りた。ゴアの領地内では自由にどこへでも行って良いが、どこ
かに滞在することを決めたらすぐに王宮に連絡してほしい。それはラジャが人を送ってそ
の場所の安全を確定させるためである。

そしてワインが供され、さらに甘い物とコーヒーが出された。コーヒーの産地で地元民が
飲んでいるコーヒーにうまいコーヒーはないとウォレスは書いている。


メスマン氏が鹿撃ちに行く森へ行ってみると大いに期待できそうだったので、ウォレスは
その森の近くに寓居を建ててもらおうと考え、ラジャに依頼した。しかしラジャは森の傍
の村の家を一軒空けさせるから、そこに住めと言う。

二日後、ウォレスは王宮へ行って、その家を見たいので案内してくれと頼んだ。ラジャは
すぐに用人のひとりに案内を命じた。村に着いて、かなり良い家に案内された。ところが
それは村長の家で、用人は村長と話し合いを始める始末。村長の側は何も用意をしていな
かった。ウォレスはかれらを動かす方法を知っていた。「こんなことではラジャに文句を
言わなければならないが、もしすぐに家が見つかるなら、ちゃんと家賃を払い、あんたが
たの損にならないようにする。」

さっそく家を探しに行こうということになった。数軒見て、良さそうな家が見つかったの
で、そこの住人に家を空けてもらうことにした。約束の日に助手をそこへ行かせると、住
人がまだ住んでいて、引っ越す様子はまったくなかったが、助手たちが来たので不平たら
たら、やっと重い腰を上げたという報告だった。

村人に嫌われると不都合が起こるかもしれないので、もうちょっと印象を良くしようとウ
ォレスは考え、その家の住人と村人仲間たちをその家に招いた。全員にタバコを配り、自
分が何をしに来たかを話し、この家を無理に空けてもらった事情を説明し、追い出した住
人にひと月分の家賃だと言ってルピー銀貨を5枚渡した。そして食材の卵やニワトリ、果
実もすべて金を払うと約束し、更にいくつかの標本を示して、こんな物を持って来れば金
になるぞ、と語った。

お開きにしたその日のうちに、十数人の子供たちが次から次にカタツムリを持ってやって
来た。そして銅銭を一個もらい、信じられないような顔で、しかしうれしそうに帰って行
った。[ 続く ]