「イギリス人ウォレス(15)」(2021年04月29日)

ある夜9時ごろ、部屋の頭の上で何やら重い動物が這っているような音がした。しかし音
はすぐに止み、ウォレスは床に就いた。翌日の午後、採集活動で疲れたかれは夕食前のひ
ととき、カウチで横になり、本を読んでいた。目が天井に行って、そこに何か塊りがある
のに気付いた。最初は棟木と屋根の間に置いた亀の甲羅と思ったが、じっくりと見つめて
いるうちにはっきりした。それはとぐろを巻いた巨大な蛇だったのである。昨日の怪音の
正体がいま判明した。パイトンが柱のひとつをよじ登り、屋根の下を心地よい居場所を探
して移動していたのだ。

ウォレスが屋根の下に蛇がいることを助手の少年たちに知らせると、ふたりはすぐに家か
ら飛び出してウォレスに早く家から出るように言う。ふたりは怯えて何もできそうにない
ことを見て取ったウォレスは、農園の作業者を呼んで来させた。

6人の作業者がやってきて家の外で相談し、ブルBuru島人がひとり進み出て来た。ブル島
は蛇の多い島だ。かれは籐でしっかりした輪を作り、他方の手に棒を持って、パイトンに
近付いた。棒でパイトンを突くと、パイトンはとぐろを解いて身構える。すると籐の輪を
パイトンの頭から通して胴まで下げ、そうやって床に引きずり下ろした。

人間と大蛇の格闘が始まった。パイトンは柱やいすに身体を巻きつけて抵抗する。しかし
ブル島人はついに蛇のしっぽをつかむのに成功し、全速力で家の外に飛び出した。5フィ
ートくらいの高さの家の床から地面に飛び降りると、パイトンを振り回して近くの木に頭
を叩きつけた。しかしそれはうまく行かず、蛇は近くの倒木の下に潜り込んだ。再び棒で
つついて追い出し、しっぽをつかんでスイングをかけ、木に頭を打ちつけ、ぐったりした
ところを手斧で頭をはねた。体長12フィートで胴の太いパイトンが地面に横たわった。
犬や小さい子供なら、きっとひと呑みだろう。ウォレスはそいつの下で一晩ぐっすりと眠
りこんでいたのである。


ウォレスはクリスマスイブにアンボンに戻り、モーニケ氏の邸宅に10日間滞在した。農
園での滞在は二十日間で、そのうちの5〜6日は天候や体調のために十分な活動ができな
かったにもかかわらず、ウォレスは十二分に満足できる採集成果をあげた。

アンボンでの西洋人の生活についてウォレスは、熱帯の条件に適応した習慣が作られてい
ると述べている。たいがいのビジネスは朝7時から12時までの午前中に行われる。暑熱
の日中は緩い綿の衣服を着て休息し、夕方に薄い洋服を着て訪問し合う。しばしば日没後
に帽子をかぶらないで散歩する。クリスマスはあまり賑やかにせず、新年に年賀の挨拶訪
問をし合い、夕方に行政長官の開催するパーティに集まる。

町に住んでいるアンボンの土着民はポルトガル・ムラユ・パプアまたはセラムの三つが混
じり合い、更に華人やオランダの血が混じっている者もいる。古くからのキリスト教徒は
ポルトガルの影響を外見や慣習の中に強く漂わせている。ましてやポルトガル語の単語が
現在の地元言語であるムラユ語の中に頻繁に使われるのだから、なおさらだ。

男たちはふだん、白いぴっちりしたシャツに黒いズボンをはき、シャツの上に黒いフロッ
クを着ているが、祭りや聖なる日には燕尾服とシルクハットで集まる。女たちは黒ずくめ
のドレスを着る。今は全員がプロテスタントになっていても、祭りや結婚の儀式などでは、
カトリック式のやり方や音楽が使われ、音楽にはゴンが混じり、踊りは土着民風のものが
行われている。[ 続く ]