「インドネシア語とマレーシア語(3)」(2021年05月31日)

インドネシア語はマレーシア語・ブルネイ語と8割以上同じだなどという奇妙な私見を述
べるひとが昔から絶えたことがない。いったい何が同じだと言っているのだろうか?文構
造・語順・文法規則に関わることがらなどであれば、それよりもっと高いレベルで同じに
なっている。だが、そのようなファクターだけでは、言語の実用性を手に入れることはで
きない。

言葉が同じだと言うからには、各語彙が持っている語義と用法、単語が組み合わさって作
られる熟語、さらには微細なニュアンスを既存語彙に付加する新造語や外国からの借用語
などに大した違いがないと言っているようにわたしには読めるのだが、はたして本当に実
態がそうなっているのだろうか?おまけに8割以上などという数値化を行っているが、学
術的な根拠を示すことができるのだろうか?

10万語ほどあるインドネシア語の単語を、その語義と用法に関してマレーシア語・ブル
ネイ語を対象にした突合せ調査を実際に行ってもらいたいものである。大本のムラユ語が
きわめて類似であったとしても、インドネシアとマレーシア・ブルネイは言語環境が大き
く異なっている。旧宗主国の言語が異なっていること、豊かな地方語の有無、宗教への傾
倒の強弱などの要素がそれらの間で大きく違っているため、ムラユ語がそれぞれインドネ
シア語およびマレーシア語・ブルネイ語になったとき、語彙面でも用法面でも、また発音
面でも差がどんどん広がって行ったのが現実なのだ。

端的な例としてよく引き合いに出されるのが、マレーシア制作のアニメ映画「ウピン&イ
ピン」であり、Upin & Ipinのキーワードで動画を引き出してそれを鑑賞していただけれ
ば、8割以上同じなどという私見にどれほどの真理が含まれているかがすぐに判明するだ
ろうとわたしは思う。インドネシア語の達人と自負する方でも、本当に8割以上の理解が
できるだろうか?

マレーシア語になった英語からの借用語には、次のようなものがある。参考までにインド
ネシア語も加えておく。
英語    マレーシア語  (インドネシア語)
tyre       tayar         (ban)
bag        beg           (tas)
basin      besen         (baskom)
button     butang        (kancing)
size       saiz          (ukuran)
police     polis         (polisi)
acre       ekar          ( - )
brag       borak         (menyombong)
cube       kiub          (kubus)
petrol     petrol        (bensin)
garage     garaj         (garasi)
museum     muzium        (museum)
bicyble    basikal       (sepeda)
summons    saman         (panggilan)
pharmacy   farmasi       (apotek)
gunny sack   guni        (goni)
television   televisyen  (televisi)
university   universiti  (universitas)
motorcycle   motosikal   (sepeda motor)
[ 続く ]