「アチェ料理(2)」(2021年07月13日)

アチェ麺を食べてpedas di mulut, panas di perutのセンセーションを味わうのが、あの
時期の食通の間で流行した食の道楽だった。口での辛さはトウガラシが立役者だが、腹で
の熱さは調合された種々のスパイスによる。その熱さは腹の中で徐々に高まり、食後の数
時間を腹の熱さに戸惑いながら過ごすことになる。もしもそれが身体に負担になるようで
あれば、「ベックウンbek keueung」と言えばいいそうだ。その意味は、「辛くしないで
くれ」である。

ミーアチェに使われるスパイスは24種あると料理人は言う。そのうちのコショウlada、
ナツメグpala、シナモンkayumanis、カルダモンkapulaga、クローブcengkih、キャラウェ
イjintan、コリアンダーketumbar、八角peka、トウガラシcabaiが腹の熱さを作り出して
いるそうだ。

汁麺には、即席麺の倍も太い黄色の麺に肉とエビ、モヤシ・トマト・キャベツの千切りが
入っている。その上にバワンゴレン、ネギ葉、セロリが振りかけられる。それにキュウリ
と赤バワンから成るアチャルとライムの実が付いてくる。

ジャカルタの有名なアチェレストランのオーナーは、毎月アチェからカリ用の調合スパイ
スを送らせているそうだ。それには確実に例のアレが混じっていることだろう。例のアレ
を単独で送れば、見つかった時に禁制品として没収され、わが身は逮捕されることになり
かねない。それが調合済みのスパイスに混じっているなら、発見される可能性は大幅に低
下するにちがいあるまい。

しかしアチェ人料理人の中には、ジャカルタへ来たのだから、そんなことまでしてアブナ
イ橋を渡る必要などないのではないか、という意見を持っている者もいる。店に来る客は
ほとんどジャワ人で、二十数種類ものスパイスを使っただけで、味がすごく効いて美味し
いとみんな言う。ジャワ料理の味付けがあっさりして頼りなく、深みや重みがないために
魅力を感じないとかれらは言うのだそうだ。


アチェは海産物が豊富に獲れるから、ミーアチェの中に肉を使わずカニ・エビ・貝を使う
ものがある。これの醍醐味はアチェで獲れた新鮮なものが使われる点にあるために、アチ
ェに行かなければならないだろう。

西アチェ県ムラボMeulabohの町にある一軒のKedai Mi Kepitingをコンパス紙記者は訪れ
た。客はまず水槽の中にいるカニを選ぶ。店主はそれを取り出して適当な大きさに切り、
よく水洗いしてから料理にかかる。水槽にいるカニの大きさはさまざまだ。一匹で2百グ
ラム程度から2キロくらいまでのものが混在している。1.6キロくらいのカニの脚は、
重さ一キロのニワトリのもも肉くらい太い。ミークピティン一皿のお値段はカニの重さで
決まるのだから、初めての店では5百グラム以下のカニを選ぶのが無難だろう。ひょっと
して満足できるかどうかまだ判らない味の店で最初から2キロの大物に取り組むのは、金
の使い方に合理性が欠けているかもしれない。

店主は大鍋に油を敷いて熱し、みじん切りのニンニクを放り込む。ニンニクの香りが立ち
昇ったらカニを入れて全体が水に浸るくらい水を加え、ふたをする。ときどきふたを開い
てかき混ぜ、水を足す。カニがゆで上がったら麺を入れ、野菜・塩・胡椒そして客の要望
に応じて化学調味料を加え、すべてに十分熱が通ったら、火からおろして皿に盛る。街中
のレストランの中には、更にごま油と白アラッソースを加えるところもあるが、このクダ
イの店主はカニの旨味を減殺すると言って、それを避けている。[ 続く ]