「バッタ(3)」(2021年07月28日)

地球温暖化は言うまでもなく昆虫にも影響を及ぼす。温暖化によって生存を脅かされるも
のは他の虫を捕食する昆虫たち、つまりハンターであり、逆にハンターの餌食になる昆虫
は繁殖しやすい状況になる、とインドネシア科学院生物学研究者は述べている。

米国ペンシルバニア州立大学研究者が発表した論文によれば、5,900〜5,270万
年前の大気中の二酸化炭素含有量が増加した時期にできた9,071種の植物化石を調査
したところ、熱帯・亜熱帯に棲息している昆虫がはるか北方にまで拡散していたことが明
らかになった。なぜそのような現象が起こったかと言えば、大気中の二酸化炭素の増加が
植物内の窒素量の比率を低下させるメカニズムが主要因であり、生存のために窒素を必要
としている昆虫がより多くの葉を食べるようになるからだ。ところが、その気象変化が起
こる前の体調に戻すことは不可能であるため、各個体の大きさは小さくなり、寿命は短く
なる。温暖化は昆虫に、小型化し、且つ大量に繁殖して短期間に死ぬサイクルへと向かわ
せるというのが、科学院研究者の説明だった。

昆虫の短いライフサイクルは環境に適合するための遺伝子をスピーディに子孫に伝える。
殺虫剤が散布される環境であれば、ほどなくその殺虫剤が効かなくなる子孫が出現して来
るのである。

食用植物の病害虫害は温暖化にともなって増大する傾向にある。植物を食べる昆虫が増加
すれば、被害が大きくなるのは当然だ。そんな害虫を退治しようとして殺虫剤に頼ると、
害虫ハンターも死んでしまう。害虫ハンターがいなくなり、殺虫剤も効かなければ、害虫
は天下無敵になる。更に繁殖が倍増したなら、人間のための食用植物は虫にかっさらわれ
てしまうことになる。おまけに植物を冒す病原菌や微生物も風や昆虫に乗って拡散してい
くのだから。


この昆虫の話はバッタに限ったものでない。人間の大敵、マラリアやデング熱を運ぶ蚊に
も同じようなことが起こる。21世紀に入る前、海抜1千5百メートルの西ジャワ州プン
チャッ峠界隈の保養地には蚊がいなかった。ところが、2千年を過ぎたころからその界隈
に蚊が出始め、2010年ごろにはデング熱患者が発生するようになった。

科学院研究者は最新の調査研究によって、かれが研究対象にしている昆虫に小型化が起こ
っていることを発見している。身体が小さくなれば、飛行距離は伸びるのである。「虫は
環境の変化に合わせて形態や生態を変化させている。ところが人間の方はそんな昆虫の変
化に対応させて何かを行おうという考えを少しも持っておらず、温暖化が起こる前にして
いたことをただ繰り返しているだけだ。だが、温帯地方の国々では、この気象変動によっ
て熱帯の害虫が大量発生し、飛距離を伸ばして温帯地域まで押し寄せて来ることへの対処
方法を検討しはじめている。」

熱帯の蚊がマラリアやデング熱を運んで来れば、温帯諸国もたいへんなことになる。21
00年には気温が百年前から5.8℃上昇すると言われており、2050年には地球の人
口が90億人になると予測されている。著しく増加した人間に食を与えるために飼育肉を
もっと増やさなければならないが、それがまた温暖化を煽る結果になる。植物性食材は大
量発生する昆虫との奪い合いになるだろう。この21世紀のうちに昆虫に対して、「増え
すぎたら食えばいい」というメンタリティを人類は持てるようになるだろうか?[ 続く ]