「スマトラのムラユ食品(4)」(2021年08月03日)

その昔、パレンバンのムシ河岸のプラキタン地区に暮らしているひとりの華人の翁が、毎
日毎日、炒めたり焼いたり煮たり塩もみや燻製にした河魚料理ばかり食べさせられるのに
うんざりして、河で獲れた魚の肉をほぐし、タピオカの粉とサゴを搾った水で魚肉団子を
作ってみた。
「フム、これはいけるぞ。」と思った翁は隣近所や知り合いに試食させた。概して好評だ
ったから、翁はその魚肉団子作りに励むようになり、作った製品を毎日自転車に乗って売
り歩いた。実際にその商品はよく売れた。巷の噂にも上るようになったのだが、この名前
のない食べ物を話題にするとき、ひとびとは困った。「ほれ、あの爺さんが売りに来る食
べ物だよ。」

華人の翁はパレンバンで阿伯empekと呼ばれていた。で、爺さんが売りに来る食べ物を語
る時にンペッという言葉が頻繁に登場し、ついにンペッンペッempek-empekが品物の名前
として定着した。それがもうひとひねりされてぺンペッになったというのが命名譚だ。元
来の名称であるンペッンペッをいまだに使うひともいる。ンペッンペッの名称が民衆の間
に定着したのは1920年代だったそうだ。


ジャンビでは、油飯nasi minyakが祝宴祭事によく登場する。名前はおどろおどろしいが、
大衆食品にエクストリームはないのが普通だ。とは言っても、豊富な油気を好まない文化
のひとびとにとっては、油染みた飯はやはりエクストリームかもしれないが。

上述のnasi lemakやnasi udukも脂飯と訳すことができるから、同じと言えば同じような
ものだ。だがどうも、minyakとlemakの言葉の選択が食い違っているように思われる。

lemakは本来、動物性の油脂を指しているはずなのに、ココナツミルクを使ったものにそ
の言葉が使われ、動物性油脂を使うジャンビの油飯にlemakの語が使われなくなってしま
ったのだから。minyakは総合的な単語であり、植物性・動物性・鉱物性のすべてに使って
おかしくないが、lemakには動物性のイメージが強い。

nasi minyakに使われるのはminyak saminなのである。サミンとは何か。牛・水牛・ヤギ
・ラクダなどの動物の脂から採られたもので、インドではギーgheeと呼ばれており、ア
ラブでの名称がサミンなのだ。


ジャンビでは、油飯はインド文化に由来すると言われているが、ジャンビにインド系のひ
とびとはあまり住んでいないため、ムラユ人と華人系がせっせと食べている。ジャンビ市
東ジャンビ郡カサンジャヤ町の食堂Sudi Mampirは美味しいナシミニャッを食べさせてく
れる店として知られている。

この店は今の店主の親が1960年代に開いたものだ。最初は普通のムラユ食堂であり、
祝宴料理のナシミニャッはそのための注文を受けるだけで、来店客用のメニューに入って
いなかった。それを個人客にも供するようになったのは20年ほど前のこと。

伝統的な祝祭事にたくさん客を招いて食事を振舞うとき、ナシミニャッとは別にたいてい
ヤギカリkari kambingが用意された。もちろんそれらは相性が良いからなのだが、祝宴料
理は本質的に贅沢料理であり、祝宴があるときに口にできるナシミニャッは自ずと贅沢料
理の雰囲気を発散させるようになっていた。だから一般庶民にとってナシミニャッの誘惑
は強いものがあったと言えるだろう。

この店が祝宴用ナシミニャッの大量注文を受けるとき、カリカンビンを一緒に注文するひ
ともあるが、カリカンビンは自宅で作ると言うひともいる。カリカンビンは料理の得意な
ひとが巷にたくさんいるのだろう。しかしながらナシミニャッに関するかぎり、この店が
昔からピカ一だったことをその話は示しているにちがいない。[ 続く ]