「みつばち(1)」(2021年08月03日)

インドネシアの森林には種々のみつばちが住んでいる。オオミツバチApis dorsata, クロ
コミツバチApis andreniformis, コミツバチApis florea, トウヨウミツバチApis cerana, 
クロオビミツバチApis nigrocincta, サバミツバチApis koschevinikoviなどがインドネ
シアの原生種だ。

オオミツバチは身体が大きく攻撃的であり、気性が荒いために飼育することがまだできな
い。スラウェシ島に多いが、スマトラ・ジャワ・カリマンタン・ヌサトゥンガラにも広く
分布している。

クロコミツバチはインドネシアで身体が最小の種で、スマトラ・カリマンタン・ヌサトゥ
ンガラに生息しており、ジャワでは絶滅したとされている。

コミツバチは既に全国のどこにも見つからなくなっていて、博物館でしかその姿をみるこ
とができない。

トウヨウミツバチは村落部でハチミツ作りのために飼育されている一般的な種だ。普通に
目にするミツバチはたいていこの種であることが多い。

サバミツバチはトウヨウミツバチより身体が少し大きめで、体毛が赤っぽい。カリマンタ
ンとスマトラに分布しているが、顕著な減少傾向を示している。スマトラでは既に絶滅し、
カリマンタンにしか残っていないという見解も出されている。


野生のオオミツバチ、クロコミツバチ、コミツバチは立木の高所の枝に巨大な巣を作る。
しかもひとつでなくて複数個作ることもある。その蜂の巣獲りが原住民の産業のひとつに
なっている。巣から商品となるハチミツや蜜ろうが得られるのである。

ひとつの巣から10リッターほどのハチミツが得られる。アロルAlor島の一本の樹に生っ
ていた数十の蜂の巣から1トンのハチミツが取れた話が、現代の最高記録として語り継が
れている。


ウォレスがティモール島のデリDeliを1861年1月から4月まで訪れたとき、そのころ
でも蜜ろうは白檀と共に重要な輸出商品になっていた。ウォレスはティモール人の蜂の巣
獲りについても触れている。

オオミツバチは高い木の枝の下に直径3〜4フィートもの巨大な巣を作る。しばしば、同
じ木に複数個の巣が作られる。ウォレスにとっての昆虫採集フィールドになっている谷で
ある日、3〜4人のティモール人の男たちと子供らが巨木の下から上を見上げているのに
かれは出くわした。上の方の枝に蜂の巣が四つある。地面から70〜80フィートの高さ
にあるその枝の下には枝がひとつもなく、しかも幹の表面はなめらかで凹凸も目立たない。
ウォレスは興味深々、この蜂の巣獲り一行の仕事を見物することにした。

中のひとりが付近で採った長い棒を数方向に裂いてからヤシの葉を巻き付け、その上から
蔓で巻いてヤシの葉をしっかり留めた。更にその男は腰に布を巻いてしばり、別の布で頭
と首と胴を包んでからその布を首にしばりつけた。顔と腕脚だけが裸のまま露出している。

巻かれた長いひもが腰帯に吊るされた。その間、別の男は長い蔓を8〜10ヤードくらい
の長さに切り、一方の端にたいまつを結び付けて下に火を点け、煙が立ち上るようにした。
そしてたいまつの少し上にナイフを結わえた。

蜂の巣獲り人は木登りの態勢に入る。たいまつが付いている蔓を手にして、たいまつのす
こし上を持ち、蔓を幹の向こう側に回してもうひとつの手で蔓を握ると、頭の上の高さで
蔓を手前に引き、足を幹に乗せて踏ん張った。身体を傾けながら、男は垂直の樹の幹を歩
いて登って行く。30〜40〜50フィートと見ていてハラハラするような高さにまで素
早く上昇して行くその技術をウォレスは感嘆の思いで眺めた。

あと10フィート超ほどで蜂の巣の枝に達する位置まで来た男は、たいまつを蜂の巣の方
に向けて揺らした。蜂の巣とかれの間に煙が流れた。そうしながら、かれは蜂の巣のある
枝の下に達し、ついに枝の上に乗った。蜂の大集団が侵略者を迎撃しようとするが、男は
たいまつを自分の近くに引き寄せる。そして悠然と腕や脚に付いた蜂を払いのけると、身
体を枝に沿わせてから、たいまつを蜂の巣の下に移動させた。[ 続く ]