「スマトラのムラユ食品(終)」(2021年08月06日)

グロプアンはヤシ砂糖と水牛のミルクを混ぜて熱し、カラメル状にしたものだ。カラメル
とチーズの混じり合ったようなグロプアンは密なテクスチャをなし、粒々した感触があっ
て、さらに旨味が乗っている。紅茶やコーヒーに混ぜるもよく、あるいは飲みながら舐め
るもよく、食パンやピサンゴレンに塗ってもよい。

2015年3月、コンパス紙記者は幻の味グロプアンを求めてその産地、南スマトラ州オ
ガンコメリンイリルOgan Komering Ilir、通称オキOKI県のパンパガン地方に向かった。
パンパガン地方の小さい村プロラヤンPulo Layangがパレンバンにグロプアンを卸してい
る唯一の村だという話が記者たちの頼りだった。


パンパガン地方で水牛牧畜センターになっているプロラヤン村では、村民の中の4人の女
性が毎週100〜150キロのグロプアンを生産している。その4人は組合を組んでパレ
ンバン向けの商業用製品を作っており、隣村の女性もひとりその組合に参加して生産して
いる。パレンバンに商業用製品を定期的に出荷しているのはその5人の組合だけらしい。

出荷と言っても、村人が乗合いバスに乗って自ら市内ジャカバリンにある流通業者まで届
けに行くのである。プロラヤン村から州内中距離バスの乗場がある隣の村まで地道を通り、
バスに乗ってから数時間の旅をしたあと、パレンバンのバスターミナルから業者の場所ま
で納品をしに行くというたいへんな仕事がその出荷なのだ。

雨季になれば、プロラヤン村のほとんどが水没する。村内の高床式の家々はまるで水上に
浮かんでいるような趣を呈する。雨季には隣村のバス乗場へ行く村道も水没するから、そ
うなると小型発動機船が使われる。

記者はグロプアン生産者のひとり、40歳のバアさんのお宅を訪問した。バアさんはご主
人と子供ふたりの一家四人で暮らしている。バアさんの母親も近くに住んでいて、グロプ
アン作りは母親から娘のバアさんに伝えられた伝統家業なのだ。

5百頭ほど飼育されている村の水牛牧場は集落から離れた場所にある。金曜日を除く毎日、
日の出と共にバアさんは夫と一緒に水牛牧場へ行き、必要な分量の乳を自ら搾り、その代
金を払って自宅に持ち帰る。家に戻ると、ミルク5リッターとヤシ砂糖1キログラムを混
ぜて弱火で熱し、5時間くらい鍋の中を混ぜながら水分が蒸発するのを待つ。水気がなく
なって茶色い塊りが残ったら、できあがりだ。それを好む形に成型すればよい。

雨季には雌水牛の排乳量が1.5〜2リッターに増加する。水牛の食糧が豊富になるから
だ。しかし乾季には状況が逆転するから乳の出も悪くなり、必然的に製品価格が高くなる。

とは言っても、生産者段階での季節変動はキロ当たり6万と7万ルピアの間を上下する程
度でしかないのだが。それでも、水牛のフレッシュミルクがリッター当たり1.5〜2万
ルピアにしかならないのに比べれば、グロプアンが持つ付加価値の大きさは歴然としてい
る。


kerbau rawaのミルクは牛乳よりもタンパク質が多く含まれているので、ひとびとはミル
クからサミン油を取る。サミンを作るときはミルクを容器に入れて置いておけばよい。す
ると脂肪の層が分離するから、そのバターのような香りのする固形分を採るだけだ。他に
も水牛のミルクからsagon puanやtape puanが作られている。

水牛ミルクを飲用にしたり、モッツァレラチーズの原料に使っている国も既に出現してい
るのだが、南スマトラの水牛王国に現代化の光が当たるのはいつなのだろうか。グロプア
ンはその日まで生き延びることができるだろうか。真の幻の味覚になる前に。[ 完 ]