「みつばち(4)」(2021年08月06日)

マンダウの素材はカリマンタンで豊富にとれる鉄だ。ローカルの知恵が作った溶鉱炉で鉄
鉱や砂鉄を溶かして鍛造のための素材が作られた。マンダウはより優れた素材と技術で作
られたために粘り弾性が高く、切れ味も鋭い。その歴然たる性能の差異によって旧型の刀
剣が駆逐されてしまったということだろう。ヌサンタラでは長い間、カリマンタンの鉄は
鉄器の質の良さを表現する代名詞になっていた。ジャワで作られた武器であっても、カリ
マンタンの鉄が使われているとなれば価格に大きい差が付いたそうだ。

そのマンダウはすべてのダヤッ人に特別の意味を持っていた。マンダウを他人への攻撃に
使うか、あるいは護身のために使うかの違いはあっても、それを使いこなすことはダヤッ
人として当たり前のことだったのである。ある時、クアラカプアス要塞でヤシの実を一刀
両断にする腕比べが行われたとき、ダヤッ人は一見へなへなして力のなさそうな男であっ
ても、ものの見事にヤシの実を両断した。ヨーロッパ人が何人もそれをトライしてみたが、
両断できた者はいなかった。


首狩りとは文字通り、人間の首(頭)を狩って持ち帰ることを意味している。持ち帰った
頭は頭蓋骨にされ、戦士の勇敢さと戦闘能力を証明する勲章として住居や部落に飾られた。
また頭蓋骨から取った頭髪を少々、マンダウの鞘に飾り、首をいくら取ったかを誇る印に
もした。まるで大空のエースが愛機に付けた撃墜機数の印とそっくりだ。

頭蓋骨をたくさん持っている若者が男の中の男であり、娘たちは多くの頭蓋骨を持ってい
る若者をほめそやし、頭蓋骨を自分に献じてプロポーズしてくれるのを待った。勲章を持
たない若者は娘たちに相手にされなかった。わたしを妻にしたかったら、頭蓋骨を持って
おいで、というセリフすら若い娘たちの口から語られたという話だ。文化が定める価値体
系のありようしだいで、人間のしゃれこうべも大変な価値を持つことになる。

危険に満ちたジャングルの中での暮らしで、夫は妻と子供たちを保護する重大な責務を負
っている。その能力を持たない男だと女の側が見なしたなら、女はその男の妻になること
に二の足を踏んで当然であるかもしれない。

首狩り戦士はマンダウを使って人間の頭と胴を切り離す。獲物の頭髪をつかむと、マンダ
ウ一閃、頭だけが戦士の手に残され、胴はその辺りに倒れているという寸法だ。マンダウ
の動きがあまりにも素早いために、首を取られた者は自分がいつ死んだのかわからずに数
歩動いてからばったりと倒れるという話もよく語られている。

首狩り族の少年たちは、首狩りの訓練をしながら成長する。立てた柱の上にヤシの実を置
き、ヤシの実の少し下に印を付ける。マンダウを一閃してちょうどその印の位置を切断す
る訓練だ。ヤシの実にマンダウが触れてはならないのである。

安定的にそれができるようになり、成長して体力が旺盛になると、今度はカカシを使って
訓練する。首の部分にはよくしなる木が使われ、頭はヤシの実だがアレンヤシの繊維を上
に付けて頭髪代わりにし、それを使っての練習に入る。その練習を十分積めば、あとは実
戦を残すのみだ。戦士たちは自分の勇猛さと力量を戦闘の中で確かめることになる。
[ 続く ]