「みつばち(6)」(2021年08月11日)

ハチミツが100%アスリasliかどうかを見分ける方法は、生卵の中身とハチミツを混ぜ
て撹拌すれば分る。アスリでなければ、溶け合ってひとつになるのだそうだ。アスリであ
れば分離する。

別の方法は冷蔵庫に入れて冷やすもので、硬くなってくるのはニセモノ・マゼモノの類な
のである。フリーザーに入れればもっと明白だ。凍ればニセモノ、凍らなければホンモノ
の判決が下る。ホンモノのスンバワハチミツであっても獲れた場所によって風味は異なる
から、風味で真贋を云々することはできない。みつばちが何の花から集めて来たかによっ
て風味が違ってくるのだ。


スンバワのハチミツ獲り作業は、暗い夜だけでなく日中でも行われる。ただしそれは状況
に応じてのことであり、高さが20メートル程度で幹の直径が一抱えくらいの比較的細い
樹に蜂の巣がひとつだけの場合なら、日中に行うことも頻繁になる。

蜂の巣獲り人はよじ登るのに邪魔になる周囲の木や枝葉を落としてからひもを付けたバケ
ツと火の点いた枯れ枝を持って樹に登り、巣の周辺で作業を邪魔している枝葉を落として
から枯れ枝の煙を巣の周囲にかけて蜂を追い払う。蜂が遠ざかったら、巣を枝から切り離
し、バケツに入れて地上にいる仲間に下ろす。終われば、幹を下って地上に戻って来るだ
けだ。

しかし3人くらいでやっと抱えられるほどの、高さ40〜50メートルの巨木にたくさん
の巣があれば、闇夜に作業するのが普通だ。月光が明るければ、蜂は人間めがけて襲い掛
かってくるのだから。蜂の巣獲りの仕事を行うときは、蜂に邪魔されずに仕事がうまく終
わるよう、呪文を唱えてお祈りするそうだ。

そのような樹に登るためには、周囲の木や蔓をうまく使って階段替わりの足場を作る必要
がある。そのような樹には蜂の巣が7から30個くらい作られ、しかも枝の先の方にハチ
ミツがたっぷりの巣ができる。それを獲りに行く際は命がけの曲芸じみた技が使われる。
身体を枝に添わせて枝を両脚ではさみ、右手でヤシ殻の繊維で作った煙の元を持ち、巣に
近寄って行く。大人の腿ふたつくらい太い枝なら、バランスを取りながら歩いて行くこと
もする。

蜂の巣獲りの仕事はたいてい二人以上で行なわれる。高所に登る人間が命がけだからだ。
何らかの事故が起こったとき、仲間がいなければどうなるか分からない。かつて、ひとり
で仕事をしている者もいたが、その蜂の巣獲り人はある日、仕事に出たきり帰宅しなかっ
た。村人が大勢でかれを探し、巨木の近くで遺体が見つかった。仲間がいれば、落ちて大
けがをして動けなくなっても、助けを呼びに行くことができる。

スンバワ島では、森の中で蜂の巣ができている樹を見つけると、その樹の獲物は自分に権
利があるという印を見つけた者が付けてよい。たいていは周囲に生えている蔓や枝などで
人為的なサインをその樹に付ける。地元の蜂の巣獲り人たちはみんなその習慣を忠実に守
っており、地元民同士の間で係争が起こることはないそうだ。サインを無視して獲物を取
ると蜂に襲われると言う話をする者もあるが、容易に他人を納得させられる話とは思えな
い。地元民たちはみんなが仲間同士の礼節を尊重しているということなのだろう。


スンバワ島のもっと東にあるフローレス島でも、蜂の巣獲り活動は盛んだ。東フローレス
県ティテハナ郡レラボレン村は蜂の巣獲り人の産地として名が知られている。既に7世代
に渡って蜂の巣獲りの技術が伝承されているのだ。蜂の巣獲り人は3〜4人でチームを組
み、他県まで含めた広範なエリアで蜂の巣獲りの仕事を行う。出先で蜂の巣の生った巨木
を見つけると、樹の持ち主と商談してから仕事に取り掛かる。樹の持ち主と蜂の巣獲りチ
ームが獲物を半々に分ける方法がマジョリティを占めているものの、樹の持ち主と樹に登
る者、そして下で作業する仲間の間で三分の一ずつ分配する方法もある。[ 続く ]