「マサカンパダン(4)」(2021年08月13日)

ルンダンを作るとき、牛肉などの食材を食べごろの大きさに切ってから、スパイスを調合
する。赤と白のバワン、トウガラシ、ショウガ、ラオスlaos、スレーseraiから成るスパ
イスは擦り石ですりつぶすのが普通で、ブレンダーで破砕したものは味が落ちると料理人
は言う。

肉厚の大鍋に肉とたっぷりのココナツミルクおよび適量の塩、そしてターメリックの葉と
コブミカンの葉を入れ、調合したスパイスも一緒に入れて、かき混ぜながら煮立たせる。
煮立ったら火を弱め、ココナツミルクからたっぷり油を出させる。そのあと、また火を弱
めて焦げ付かないように混ぜながらじっくりと煮込む。水分がなくなるまでにだいたい8
時間くらいを費やす。こうして世界一の美味い物と評されたこともあるミナン食の至宝ル
ンダンが出来上がる。

ただしこれはタナダタルのスンプルSumpurのひとびとが行っている調理法だ。いかにルン
ダンとはいえ、地方バリエーションがないはずもない。アガムのカパウKapauではスンプ
ルスタイルのスパイスにクトゥンバルketumbar、コショウ、ナツメグ、クミリkemiriが加
えられて、もっと風味豊かなものになる。

ルンダンは水気が完全になくなっていなければならない。水分があるものはカリオkalio
と呼ばれて、ルンダンの名をもらえない。要するにルンダンの仕掛品でしかないのである。
とは言っても、カリオだって食べられているのだが。

ミナンカバウの女性も、料理の腕前によって賞賛もされ、またけなされもする。中でも最
重要な料理の試金石がルンダンであり、他の料理がすべて合格ラインを越えていても、ル
ンダンだけが合格できなければけなされることになる。逆もまた真で、どんなに料理がへ
たくそでも、ルンダンだけがみんなに気に入られたら、総合点は合格になるのである。


各家庭で作られる料理はおふくろの味だ。子供たちの味覚はおふくろの味に養育されて成
長する。母と子のつながりがルンダンを媒介にすることも起こる。ラマダン月が始まろう
とする時期になると、ブキッティンギの宅配会社には食品を梱包した段ボールを持って来
るイブイブibu-ibuが増加する。イブイブのひとりはその中身をルンダン・サンバルラド
・デンデンバトコッ、イカンカラヨが入っていると教えてくれた。ジャカルタの医科専門
学校で学んでいる娘に送るのだそうだ。ジャカルタにレストランパダンが至る所にあるの
は知っているが、娘はサンバルラドの美味しいのが見つからないので「母さんの作ったの
が欲しい」と電話をかけてくる。だからついでに他の食べ物も送ってやる。さすがにルン
ダンを一日何時間もかけて作るだけの時間の余裕がないから、サンバル以外の食べ物は美
味しい店から買って来る。

別のイブイブはジャカルタの叔父の家に住んでいる息子と、息子を住まわせてくれている
兄と兄嫁に、折に触れてルンダンを作って送っている。たいてい同じボール箱に、かさば
るが軽いクルプッやクリピッを一緒に詰めて送っている。「これを食べるときに、あの子
が母親のことを思い出してくれるだろうから、それがうれしい。」と母親の心情の一端を
垣間見させてくれた。

ラマダン月初日の前日になると、ブキッティンギのその宅配会社には段ボール箱が山のよ
うに集まって来る。普通は一日で中型トラック一台分くらいの貨物量なのに、その日は半
日で大型トラック一台分になった。

貨物の9割は食べ物であり、食べ物が送られるときは必ずルンダンが入っていると窓口係
員は言う。送り先のほとんどはジャカルタ向けで、残りはスマトラ東岸のプカンバルやジ
ャンビなどミナン人のランタウ先だ。[ 続く ]