「みつばち(終)」(2021年08月13日)

西ジャワ州ボゴールの森林省自然保存森林開発研究センターは10年以上前にジャワ島で
みつばちのハチミツ生産活動の実験と調査を行った。セイヨウミツバチApis melliferaが
ジャワ島でどのような活動を行うのかを確認するのが目的だ。セイヨウミツバチがオース
トラリアから初めて輸入されたのは1971年ごろだった。

セイヨウミツバチはおとなしく、ハチミツの生産性が高く、繁殖力も旺盛で、巣箱に戻る
習性も強い。研究センターは巣箱を130個用意し、それをジャワ島内の14カ所に一定
期間置いてハチミツ作りの様子を観察しているのである。各樹種の開花期に合わせて、巣
箱を2台のトラックに積んで移動させる。巣箱ひとつにはおよそ3万匹のみつばちが暮ら
している。

5・6・7月はkapukの樹が開花する。その間、中部ジャワ州のPati, Jepara, Rembang, 
Kudus、更に東ジャワのPasuruan, Banyuwangiを巣箱は移動する。

8・9月はkaretとkaliandraが開花期になり、そのシーズンには中部ジャワのUngaran, 
Wonogiri, Sragenから西ジャワのSubang, Sumedang, Majalengka, Sukabumiを歴訪する。
10・11月はrambutanの開花期で、そのときはまたSubangに戻る。

その巡回活動でハチミツが4百キロ得られるそうだ。しかし季節変動で開花に障害が起こ
ると、ハチミツの生産量も低下する。生産量を高めるためには、みつばちの生殖行動を活
発化させて働きバチを増やさなければならない。女王バチは3年くらい生きるが、排卵能
力は低下する。最高の状態を持続させるために、センターは6カ月ごとに女王バチを交代
させている。女王バチをそうやって交代させることができるのも、セイヨウミツバチのメ
リットだそうだ。


だが世界は今、蜂群崩壊症候群colony collapse disorderの危険に直面している。みつば
ちの群生コロニーが崩壊して、巣が滅びる現象が世界中で続発しているのだ。巣から出て
行って花の蜜や食物を持ち帰って来る働き蜂が、女王蜂や幼虫を巣に置いたまま戻って来
なくなり、コロニーに置き去りにされたものたちが餓死するのである。

植物の受粉の9割がたを担っているみつばちがいなくなれば、植物界に大異変が起こりか
ねない。それが人類の暮らしにたいへんな問題をもたらすことは、さまざまに語られてい
る通りだ。


ボゴール植物園では、毎年乾季(6月ごろ)から雨季の初期(12月ごろ)まで、オオミ
ツバチが園内を所狭しと飛び回る。ところが毎年、園内にできた40ほどのコロニーから
飛び立って園内に満ちる十数万匹の蜂が、ある年に様変わりの様相を呈した。コロニーは
10そこそこしかできず、しかもコロニーの個体密度も閑散としたありさまであることが
判明した。ボゴール植物園の開花期が終われば、オオミツバチはコロニーを別の地方に移
して新たなコロニーを作るはずなのに、その年の翌年2月になっても乾季に作られたコロ
ニーは維持し続けられていた。季節の移り変わりの状況を読んで移住を行うみつばちたち
が、現実の季節の変化を読めなくなったために移住の習性が実現できなくなっているよう
だ、とボゴール植物園みつばち研究員はコメントしている。

ハチミツ生産のためのみつばち養殖にも異変は起こっている。ある養蜂家はセイヨウミツ
バチのコロニーを150設けてハチミツを作って来たが、コロニー当たり1万匹ほどの蜂
が生産する蜜の量が減少するようになった。コロニーを維持させるために食料を追加して
やらなければならず、毎週1キロの砂糖を各巣箱に与えているとのことだ。巣箱を減らす
養蜂家が増加傾向にあると言う。

農家にも影響が出ている。中部ジャワ州ゴンボンGombongのメロン農家の間で、メロンの
受粉を人間の手で行っているところが出てきているというニュースがある。それは中国南
部四川省の梨農園で毎年4月、千人を超える人間を使って梨の花の受粉が行われている話
を思い出させる。

みつばちは無料で隅から隅までその仕事をていねいに行ってくれるが、梨農園では実の付
かない樹がなしには済まないそうだ。[ 完 ]