「マサカンパダン(8)」(2021年08月20日)

ミナンカバウには、カパウ飯nasi kapauという食もある。ヌサンタラの至るところで見ら
れるナシチャンプルnasi campurのミナンカバウ版だ。ジャワでそのスタイルはナシラム
スnasi ramesと言い、バリ島ではnasi campur, nasi Bali, nasi campur Baliなどと呼ば
れている。インドネシア語としての総称がナシチャンプルで、それの各地版がさまざまな
名称になっているように見える。

ナシチャンプルというのは、大皿の中央に飯を盛り、飯の周りに地元家庭料理のおかずを
添える庶民向け食事スタイルを指していて、訪れた先々の各地元料理の特徴的な味覚を楽
しませてくれるものだ。だからナシカパウというのは簡単に言ってみれば、レストランパ
ダンで出て来る大量の各種小皿に載ったおかずを選んで一枚の大皿の飯の周りに置いたも
のということになるだろう。ただしおかずの味付けはカパウ村が誇るスパイス満点のもの
になっているのだ。


カパウというのはブキッティンギからほど近いカパウ村のことであり、ブキッティンギの
パサルアタスPasar Atasにはナシカパウの売場がいくつもある。パサルアタスの中でLos 
Lambuangと呼ばれる一画に行けば、たいていのひとの口中によだれの分泌を活発化させる
売場が並んでいる。ロスランブアンとはperut kosongの意味だ。

売場のひとつを訪れると、各種の鍋に載った種々のおかずが所狭しと並んでいる。豆腐と
卵を混ぜてグライにした練物の腸詰tambusu、干し肉dendengのバラド、鶏ルンダン、アヤ
ムゴレン、キャベツのグライgulai kolや魚のグライ・・・・

店の前に立つと、「何にしますか?」と柄の長い杓子を手にした店主が尋ねる。客がアヒ
ル肉のルンダンrendang bebekと答えると、その女性店主は即座に炊飯器から飯をよそっ
てバナナ葉の上に置き、ナンカ、キャベツ、ササゲ豆などいくつかの野菜にグライの汁を
かけたものを加えてから、ちょっと離れた位置にある鍋のルンダンベベッを杓子で取って
飯の横に置いた。

ナシカパウを買う時には、飯をよそってくれる店員の手のサイズをよく見ろ、とミナンの
ひとびとは言う。手の大きい店員ほど、入れてくれる飯の量が多いのだそうだ。小柄で若
い美人女性が店番をしていたら、果たしてミナン人の客は増えるのか減るのか・・・?

バナナ葉を包んで客に渡す前に、店主は干し肉の鍋から小さい一片を注文もしないのに加
えてくれた。ミナン人の友人は、あれがナシカパウのサービスの極意だ、と言った。確か
に、ほんの一切れでも無料で追加してもらえば、客は無性にうれしくなるものだ。


女性店主は、25年間ここで商売を続けている、と語った。イドゥルフィトリの休みを除
いて、年中無休だ。カパウ村の自宅で夫と一緒に毎日午前3時からおかずを作り、6時ご
ろに作り終えるとブキッティンギのパサルアタスまで40分かけて車でやってくる。

パサルに売り場を持たないナシカパウ売りもいる。カパウ村の住民の中には、市日に合わ
せて食事時に商品を運び込んで販売する人がいるのだ。日によってかれらが店を張る市場
は違っているのである。

いや、そればかりか、カパウ村の住民もヌサンタラの各地にランタウをする。ランタウ先
でナシカパウの店を張る者もいる。ジャカルタでもスラバヤでもナシカパウは必ず見つか
るし、バリ島にもある。レストランパダンがミナンカバウ料理の高尚な食べ方だとするな
ら、ナシカパウはそれをもっと庶民的にしたものと思えばよいだろう。ミナンの食文化は
いまや、インドネシアを代表するもののひとつになっていると言って過言であるまい。
[ 続く ]