「羊を食べない(?)インドネシア人」(2021年08月20日)

ライター: 文学者、F ラハルディ
ソース: 2014年5月17日付けコンパス紙 "Nasib Ternak Domba"

中央統計庁2013年データによれば、インドネシア全国の飼育羊は1,450万頭いる。
たいへん大きい数字だが、飼育ヤギの1,850万頭よりは少ない。その羊の頭数は相当
に大きいものだというのに、市場やスーパーマーケットで売られている羊肉をわたしは見
たことがない。売られているのはヤギの肉ばかりだ。もちろん牛肉は別にしての話だ。羊
肉のサテやグライもとんとお目にかかったことがない。売られているのはsate kambingや
gulai kambingばかりなのである。

インドネシアで飼育されている羊は食用肉にされたことがないのだろうか?家畜屠殺場で
は羊も定期的に屠殺され、皮革をはがれ、食肉等に処理されているのである。そのときに、
羊肉がヤギ肉という名称に変化するのだ。つまり昔から、羊の肉はヤギ肉という名称で販
売されていたということなのである。だからサテやグライになったときにもヤギ肉の一本
やりになる。たとえ羊dombaの肉であってもsate dombaやgulai dombaと呼ばれることはな
く、ヤギkambingの名前を使ったsate kambingやgulai kambingという名前で売られるので
ある。


ジャワ語では、wedhusというひとつの単語がdombaもkambingも意味している。区別をする
必要が起こった場合にだけwedhus gembelとwedhus jowoという補足が行われる。つまりジ
ャワ人にとっては羊もヤギの仲間であり、羊は縮れ毛(ゲンベル)のヤギということにな
る。ジャワ語のクロモではヤギをmendoまたはmendo jawi、羊はmendo gembelと呼んだ。

それらが屠殺場に入ってから肉になって出て来たときには、どちらもiwak wedhusあるい
はulam mendoという単一名称で呼ばれた。羊はジャワ語の中でユニークな名称を与えられ
たことがなく、その影響がインドネシア語の中にもたらされた結果が上のような現象にな
ったのである。


KBBIのkambingの項目には、ウシ亜目の草食動物、偶蹄目、角は空洞で、通常は肉・
ミルク・時に毛を取るために家畜として飼育される、Capra、という説明が見られる。一
方、dombaの項目は、毛の厚いkambing(毛はウールの素材に使われる)、kambing kibas、
という説明になっている。

KUBI(Kamus Umum Bahasa Indonesia)ではkambingもdombaももっと簡単な説明になっ
ている。
kambing: binatang sebangsa domba, ada banyak macamnya seperti kambing kacang, 
kambing benggala, kambing kibas, dsb.
domba: kambing kibas

KBBIとほぼ同様に、インドネシア百科事典でも説明は似たようなものだ。
kambing: ラテン語Capra、ウシ亜目の動物、偶蹄目、角は空洞、首は短く額は前に出てい
る、鼻は平坦で平らな角は脇に伸びる、オスヤギはあごひげがある、植物を食べる、イン
ドネシアの全土でたくさん飼育されている、一般に乳ヤギと肉ヤギの二種類が知られてい
る。
domba: biri-biri、ウシ亜目に属す、小型飼育動物、別名Gibas

インドネシア総合百科事典には、羊もヤギももっと詳しい説明が付されている。
kambing (goat): 属Capra 科Bovidae、哺乳動物、ウシ亜目、角は空洞、dombaと深い関係
にある、ヤギは肉・乳・皮革のために飼育される、インドネシアにいる最も小型の種とし
てkambing kacang、大型は耳が下まで垂れ下がっているkambing Etawahが知られている。
domba または biri-biri (英語sheep): 哺乳動物、ウシ亜目、属Ovia 科Bovidae、野生の
ものと家畜化されたものがいる、dombaはkambingとたいへん近い関係にある、違いは:羊
の角はらせん状であること、オス羊は臭くないこと、あごひげはオスヤギに似ている、羊
は、柔らかいウール、肉、皮革を得るために飼育される。
Oviaの綴りは正確にはOvisであり、誤植と思われる。

KBBIはジャワ語辞典とKUBIだけを参照して語義を決めたように見える。インドネ
シア総合百科事典には目が届かなかったようだ。ましてや、ウエブスターや大英百科には
一瞥もくれなかったのだはないだろうか。