「闘う羊たち(2)」(2021年08月24日)

西ジャワの州都バンドン市を取り巻いているバンドン県でも、闘羊の催しはよく行われて
いる。ガルッ県から闘羊選手が飼育者に連れられてやってくるし、もちろん他県からも参
加することができる。バンドン県でのこの催事は名称が異なり、ngadu dombaと呼ばれな
いでkontes ketangkasan dombaと呼ばれている。ngaduが持っているネガティブな使役的
語感を避けたのかもしれない。羊の敏捷性コンテストという言葉とオス羊の決闘の姿が読
者の脳裏でフィットしただろうか?

バンドン県で行われているこの健全な羊の決闘試合をスンダ人の中には、羊に乗り移った
祖先の勇士の霊がその技と力を競っているのだと語るひともいる。ともあれ、小鳥や鶏の
鳴き声コンテストと同じで、羊の敏捷性コンテストは羊に経済価値を与えることになるの
だ。

試合の勝敗は自ずと決まって来るのだが、単に強いだけでは優れた羊と言われない。その
姿が人間の目に感銘を与えるかどうかが、もうひとつの要因を形成する。実力があって、
しかも雄々しい姿をしていれば、言う事はなにもない。しかしどんなに強くても見た目に
醜さがあれば、点数は割り引かれる。もちろん美醜については、各個人の持っている美醜
の境界線を越えて美の区分に入った場合、個人の好みがそこに強く混じり込んでくるため
に、もっとも美しいという形容詞が一般性を持たないのは美女コンテストに見られる通り
である。

その日の大会でコンテスト審査団がチャンピオンを決める。その評価基準は美醜・強弱・
勇怯の三ポイントになっていて、相手を怖れて逃げた羊は評価のまな板に載らない。つま
りチャンピオンは審査団が勇強美を専門的見地から審査して決めるので、一般のひとびと
にも強い説得性を持つものになる。

その評価に金銭的価値が付着するのだ。コンテストでチャンピオンになった羊の飼育者は
羊と共に人気者になり、その羊を買いたいという声をさばくのに忙しくなる。

2021年のイドゥルアドハで都市部での小売価格が一頭2百万ルピアくらいした羊やヤ
ギは、産地での卸価格は百万前後だろうと思われる。闘羊用の羊はもちろんそんな価格で
ないが、たとえ2〜3倍だとしても、そのチャンピオン羊を買いたいという声は数千万ル
ピアを最初からオファーしてくるのである。~ガドゥドンバが羊飼い仕事の強いインセン
ティブになっていることがそこから見えて来るだろう。


2012年6月のコンパス紙は、ガルッ県ランチャボゴ村住民の中で闘羊用の羊を飼育し
ている者についてのルポを掲載した。アネッ・スティスナさん42歳は年齢3カ月の闘羊
が3百万ルピアで売れたことを記者に語った。7〜12カ月育てれば2倍で売れるのだそ
うだ。

売上3百万ルピアの原価は1百数十万ルピアだそうで、原価は餌と世話の費用で構成され
ている。メス羊は一度の出産で2頭を産む。一年以内にまたすぐ次の子供が生まれて来る
から、商品在庫には困らない。この闘羊繁殖事業を始めたおかげでアネッさんはすべての
借金を完済し、子供をすべて高校まで上げ、86平米の土地を自己所有にすることができ
た。

別の闘羊生産農家は1〜3歳の闘羊を11頭持っていて、その資産としての総額は2千万
ルピアだそうだ。それをもう数カ月間肥育してやれば、想定売上はその3〜4倍になると
述べている。

ガルッの羊は一般的に体重が65〜70キロに達して身体が大きく、巨大な角が巻いて頭
部を覆い、活動的で敏捷に動き、しかもアグレッシブだ。他の土地にいる羊に比べて、見
た目もエキゾチックであり、しかも性質がまるで別種の動物であるような印象を受ける。
耳は小さくて4〜8センチしかなく、尾も小さくて、イノシシの尾とかネズミの尾などと
言われる。ガルッ羊の肉はうまいという評判だ。[ 続く ]