「闘う羊たち(終)」(2021年08月26日)

ガルッ県海洋漁業畜産局畜産飼育課長によれば、2011年データでガルッ羊は584,798
頭おり、一頭の平均体重60キロで25キロの肉と25キロの骨が獲れるとのことだ。肉
は時価でキロ当たり6万ルピア、骨は3万ルピアとなっていた。需要は一日当たり最大で
70トン、需要元はジャカルタとバンドン。

県商工コペラシ中小零細事業局の2011年データによれば、ガルッ羊の皮革生産量は2
1,700枚となっている。ただしサイズは無規格で枚数だけが数えられている。皮革は
ジャケット・バッグ・靴などに加工されており、ジャケットはマレーシア・シンガポール
・日本に5千百枚が輸出されて258,651米ドルの輸出売上になった。

ガルッ県の皮革生産事業は1900年から始まった。業界者のひとりは、皮革製品素材と
しての皮生産のために月間5千頭分のガルッ羊が必要だと述べている。ジャケット用には
一着60〜140万ルピア相当、バッグ用には一個40〜150万ルピア相当の皮革が必
要だそうだ。


闘羊がガルッ羊の専門だとするなら、闘羊でない羊はヌサンタラの至るところで飼われて
いる。ほとんどが肥育用であり、農家の投資活動のひとつになっている。たとえば東ジャ
ワ州では、たくさんの農家が脂尾羊種を最大でも30頭未満飼育している。たいていは空
き地へ連れて行って放し飼いし、夜に家に連れて帰るという方法を執っている。羊は夜、
農家の周囲で勝手に眠り、昼間空き地で勝手に草を食べて太るという寸法だ。

脂尾羊は特に東ジャワ州内で高い人気を持っており、羊産の盛んなジョンバン・ボジョヌ
ゴロ・トゥバン・ブリタル・パスルアン・ジュンブルJember・バニュワギBanyuwangi・マ
ラン・ルマジャンなどの諸県では東ジャワ特産の優良種だとコメントする関係者が多い。
難点は種付の際に人間がメスの尾を持ってやる必要があるくらいのことだそうだ。

一般の農家が小規模で粗放的な飼育を行っているのに対して、よりビジネス効率の高い羊
小屋飼育方式を行う農民もいる。ひとりの人間が50〜100頭を世話することができる
ため投資額もコストも売上も大きいものになり、行政と産業界はこの方式をプロモートす
る傾向にある。この方式は大きい羊小屋を作って羊をその中で生活させ、朝夕濃縮餌を与
えて太らせるスタイルだ。

羊は病気にかかりにくく、また一日中小屋の中にいてもおとなしくしていて争いを起こさ
ないため、この飼育方式は資本効率がたいへん優れていると報告されている。50頭を肥
育して8カ月間太らせば、農家にとってはたいへん大きな補助収入になり、生活が大いに
安定するという試算も出されている。

パスルアン県プリゲン郡で繁殖と肥育を手広く行っている農家では3百頭が飼育されてい
る。繁殖用羊の購入は年齢や体重などを参照せず、パフォーマンスと姿で選択しているそ
うだ。何年もかけて経験を積んで来たから、羊の姿を見れば良いか悪いかが分かるように
なったとその事業主は物語っている。


ちょっと古いが2002年の州内飼育羊頭数は136万頭いて、年間2万頭が出荷されて
いる。出荷は、生きているものと肉にされたものを含んだ数字で、わずかだが下降傾向が
見られる。その数字は明らかに、在庫過多の様相を物語っている。羊生産者の話では、羊
の需要が高まるのはイドゥルフィトリの後に起こるジャワの結婚シーズンとイドゥルアド
ハの時期のクルバン需要ばかりであり、その時期をはずれると需要の低迷が続くのだそう
だ。

地元社会の生活習慣がそんなものであるなら、状況改善は外国への輸出だと考えるひとび
とは少なくない。産業界も行政もがその必要性をひしひしと感じており、羊需要の大きい
国はどこかと見渡すと、すぐ近くのマレーシア、そしてイドゥルアドハで莫大な需要が起
こるサウディアラビアが目に入って来る。

マレーシアでは国内需要の93%がオーストラリアとフィリピンからの輸入で賄われてお
り、マレーシアの羊生産者は頻繁にジャワを訪れて羊やヤギを買い付けているが、いかん
せん、量的に大違いになっている。マレーシアの国内生産のための材料を輸出するよりも、
消費需要を狙って製品供給をする方が良いに決まっている。

サウジアラビアも国内需要の大きい部分をオーストラリアとスペインからの輸入に頼って
いる。それらの市場に食い込もうと、インドネシアの羊たちは虎視眈々と狙いを定めてい
る人間たちに抱かれている。[ 完 ]