「カリマンタンのダヤッ料理(3)」(2021年08月27日)

2013年11月初め、東カリマンタン州西クタイ県の創設14周年記念祝祭をコンパス
紙が取材した。特に、催しのひとつとして開かれる大祝宴に地元のダヤッ族の料理が勢ぞ
ろいするとあって、興味津々の取材になった。

西クタイ県はマハカム河上流に作られた県だ。祝宴の会場はスンダワルにある文化園内の
建物のひとつだった。大広間の木の床にダヤッの織物が長く敷かれ、その上にさまざまな
料理が所狭しと並べられていた。大小の皿に焼き魚や揚げ魚が載り、大椀には野菜や魚の
汁物が入っている。取材班は県婦人会会長ヘルミヤナさんの解説を聞くことにした。かの
女がこの大祝宴で供される料理の総取りまとめ役だったのである。

トゥンジュンダヤッ族の料理bina'kは酸ナスterong asamとラクンプlakum'pの実がトウガ
ラシとニンニクやスパイス類と一緒に煮込まれていて、たいへんエキゾチックな味覚を愉
しめる。ラクンプはマハカム河沿いの至る所に生えている蔓性植物で、その紫色の実は酸
味と渋みの混じったユニークな味だ。ビナッはダヤッ族の伝統スタイルの結婚式の祝宴に
しか出て来ない料理であり、外部者がそれを賞味できるのはきわめて稀なことなのだ。

その汁はパティンpatin魚でだしを取る。パティンは東南アジアのたいていの川に棲む大
型淡水魚のひとつで、英語ではpangasius、日本語はバサと言う。それにショウガ・赤と
白のバワン・ウコン・スレー・酸ナス・ラクンプの実・髪バワンbawang rambutを加えて
一節が50〜60センチの竹筒に入れ、クチョンブランkecombrangの葉で封をして6時間
超、火であぶる。

酸ナスはナス科の植物で、terung dayakとも呼ばれている。髪バワンはアヤメ科植物で、
その塊根から出る根毛が髪の毛のように長く密生している特徴によって名付けられたと思
われる。中米が原産地であるものの、インドネシアではカリマンタンの特産種になってい
る。別名bawang dayakやbawang hutanなどとも呼ばれる。

ikan jelawat bakar daun emperum'kはジュラワッという体重が十数キロの重さに成長す
る川魚にンプルンクの葉を搾った水をふりかけてから焼き魚にしたもの。食べる前に赤バ
ワンとトウガラシのみじん切りを載せる。

pumniはikan baungと瓜と若い籐の芯の煮物だ。籐の芯はかすかな苦みが感じられた。
burasは米のロントンにikan gabusとその煮汁をかけたもの。nasi sobotは陸稲の米とキ
ャッサバをgebokの葉で包んで炊いたもの。

デザートはbubur jagaq。ジャガッは陸稲畑で稲の間に植えられていたチガヤの一種であ
り、小さい実をたくさんつける。陸稲の収穫が失敗すると、ダヤッ人はジャガッを主食に
した。稲の収穫を行った後にジャガッを取り入れるのが昔からの慣わしだった。しかし陸
稲は一年二回の収穫があるが、ジャガッは年一回しか稔らないため、ダヤッ人の間で植え
るひとが減っている。つまりブブルジャガッも口に入る機会が減っている食物なのだ。

このブブルはアレンヤシ砂糖とココナツミルクを垂らして食べる。記者の印象はジャワの
ブブルメラbubut merahと似たようなものと感じたが、ブブルジャガッは細かい粒々感が
口中に残った。


今ではダヤッ料理のレストランがあちこちの都市にオープンしているものの、昔は滅多に
出会えるものでなかった。カリマンタン島内にすらほとんどなかったのだ。それはどうし
てなのか。[ 続く ]