「カリマンタンのダヤッ料理(5)」(2021年08月31日)

西クタイでは、ルンダンは昔からダヤッとムラユを結び合わせる食べ物として使われて来
た。ダヤッとムラユが同じ席に着いて同じ物を食べるとき、ルンダンが供されたのだ。そ
れがいつから始まったのかを知っているひとは地元民にもいない。その日、ルンダンの調
理を指揮したムラユ系のシェフですら、西クタイにおけるルンダンの起源については知ら
ないと言う。

コリー・ラユン・ランパン氏は、先住民のダヤッ族が後からやってきて住み着いたムスリ
ムのクタイムラユ人、バンジャル人、ブギス人たちを受け入れ、隣り合って暮らすことを
昔から自然に行ってきたことを示すものだとそれを論じた。素材の肉はダヤッの古来から
の食べ物である水牛が使われ、その味付けと調理法がムラユ系であるミナンカバウに倣っ
たハイブリッド料理だという見方ができる。

普段からあまりスパイシーな料理を食べない内陸ダヤッ人が豊富なスパイスを使った味覚
の鋭い食べ物を受け入れていることが、外来のものに対するかれらの広い受容力を示して
いるのだというコリー氏の見解だ。


中部カリマンタン州パランカラヤの町にある地元料理の食堂には、たくさんのメニューが
用意されていた。やはり川魚の料理が多い。jelawat, lais, saluang, patin, gabusある
いはbaungなどが焼き物・揚げ物・煮物・ペペスpepes、ペニェッpenyet、ジュフjuhuなど
にされる。ジュラワッはカリマンタンだけに住む魚で、揚げ物にすると最高。サルアンは
川魚の雑魚だ。バウンはナマズに似た巨大魚である。

煮物は濃いココナツミルクと豊富なスパイスが使われている。ジュフとはタケノコや若い
籐の芯と一緒に煮込んだもの。籐の芯は苦みがあって、ニガウリを思い出させる。客は選
択したおかずと陸稲の飯とサンバルスレーsambal seraiで食事する。サンバルスレーはス
レーの香りが豊富で、あまり辛くない。

魚を発酵させたwadiを油で揚げたものは塩気と酸味が強い。果実の酸味とはだいぶちがう。
魚の卵をスパイスで黄色く煮込んでいるtelur ikan masak kuningはモチモチした魚卵の
感触に甘味が載っていた。gulai ikan jelawatやsayur asam ikan baung、そして甘酢を
かけたikan asin telang-telangの魚肉は口の中でとろけるようだ。薬用シダのkalakaiと
籐やヤシの若木の芯とスレーで作ったすまし汁も人気がある。


川魚はダヤッ人の日常食品なのだ。常に河川の岸に居住地を設けるダヤッ人は川がもたら
すたんぱく源を毎日摂取した。きっとそのあまりにも日常的なものとして扱われて来たた
めだろう、神事の生贄に魚が使われることは皆無になっている。ダヤッ族の生贄は牛・水
牛・バビだ。コリー氏によれば、それらの動物のほうが、元々生贄に使われていた人間に
近いからだそうだ。臓器などを含む身体の構造が人間に近いために、人間の代理を果たす
ことができると考えられたのかもしれない、とかれは言う。

別の人類学者はダヤッ族の宇宙創造観について、「造物主はまず陸上生活する獣を作り、
そのあとで人間を作ったというのがかれらの持っている観念であり、陸生の獣たちは人間
の兄に当たると考えられている」と述べている。ここでもまた、生贄に成りうるものは人
間と同等のものでなければならないという考え方が登場する。最高最良の生贄は人間であ
るということを言外に物語っているようにわたしには聞こえる。[ 続く ]