「インドネシアのヤギたち(3)」(2021年08月31日)

ヤギから取れるミルクの量は乳牛から得られるミルク量より小さいものの、売上高は遜色
がない。村民がヤギに向けている期待は牛よりもはるかに大きいものがある。県行政もヤ
ギの頭数を増やして畜産活動をもっと振興させる方針を立てている。

スレマン県の4千頭のヤギから得られるミルク量は3千リッターで、乳牛5千頭による6
千トンのミルクには劣っている。しかしヤギ乳の単価は牛乳より高く、ヤギ乳を増やせば
大きな経済効果が得られる。県がヤギ飼育の振興を政策の上位に置くのも自然なことだろ
う。


中部ジャワ州プルウォルジョ県ではPEヤギの市が開かれる。売り手はほとんどが県内と
近辺のワテス県やクロンプロゴ県の畜産農家で、買い手は中部ジャワのパティやトゥガル、
東ジャワのトゥルンガグン、ラモ~ガン、マドゥラ、更にはジャワ島外のメダンやランプ
ン、そしてバリ島からもやって来る。マレーシアや台湾からバイヤーが来ることも珍しく
ない。

実は、インドネシア行政はヤギの輸入を認めていない。ヤギの市場価格が安定しているの
は、その面に負うところが大きいと言えよう。国内の需給が国産品の供給過多なのだから、
為政者にとって輸入の必要性など存在しないのである。そうして国内産業界には輸出の振
興を呼び掛けているわけだが、優良なヤギは国内に置いておき、品質の劣るヤギを輸出せ
よ、というのが行政の指導している方針だ。

ヤギの品質はA・B・C・Dに区分されている。プルウオレジョ県令決定書によれば、A
級ヤギの売買譲渡はその村の中でのみ認められる。そのヤギが村の外へ譲られたら違法行
為になるのである。B級は同一郡内、C級は同一県内、D級だけが県外へ運び出すことを
認められている。だから海港や空港に運び出されてよいのはD級だけということになって
いる。

しかし農民が政府から給料をもらってヤギを飼育しているのではないのだ。農民が高品質
のヤギを作る努力を払うのは、それが高い商業価値を持つからである。もっとも高い商業
価値を持つ作品を作ったのに、それを一番低い経済環境の中でしか売買してはならないと
強制するのは悪法だろう。悪法を足蹴にするのは植民地時代から培われて来た庶民の反抗
精神の表われにちがいあるまい。

市にはすべての等級のヤギが集まって来る。順法精神の横溢する国民性であれば、D級と
せいぜいC級くらいしか市に集まらないだろうし、そんなところに外国からバイヤーがや
ってくるはずもあるまい。

ところが現実には外国バイヤーがやってきてA級ヤギを廉く買い、飛行機に積んで帰国し
て行くのだ。それがつつがなく行われるよう、業界関係者が支援する。ヤギを積んだトラ
ックが県境のチェックポイントを通過する時、ヤギの等級を尋ねられるが、関係者がD級
だと保証することでスムースに空港への道をたどることができる。

マレーシアからヤギ1千頭とか2千頭のオーダーもときどき入ることがある。業界者は村
々を回ってその数を集める。数を集めるためには等級のことなど言っていられない。そこ
にA級やB級が混じったなら、それに応じた価格で買い手に金を払ってもらえばいいだけ
の話になるのである。[ 続く ]