「インドネシアのヤギたち(4)」(2021年09月01日)

外国バイヤーがプルウオレジョのヤギ飼育村にやってきて直接取引をすることも頻繁だ。
パンダンレジョ村のスギヨノさんは何度もそんな体験をしている。

かれはクリウォンという名前の特級優良ヤギを持っている。国内で4千万ルピアの買オフ
ァーが出されたが、売らなかった。5千万なら売るのに躊躇しないとかれは言う。台湾や
マレーシアのバイヤーが家まで来て、庭でヤギを見ながら価格交渉をするのも稀でない。
普通の高級ヤギは一頭1.5〜2千万ルピアで商談が決まっている。バイヤーが購入した
ヤギはバイヤーが船や飛行機を使って輸出する。


バリ島にはたいへんに変わった姿のヤギがいる。体高はだいたい60センチ前後、体重は
40キロ前後で、身体のサイズは中型犬程度だろう。その身体をまるで長毛犬のように長
い毛が全身から顔まで覆っているのだ。毛の長さは15〜25センチくらいで、長いのは
30センチに達する。毛色は白がメインを占め、薄茶色や茶色の者も少数派として存在す
る。単色が圧倒的に多いが、二色や三色の者も稀にできる。

しかしその体形は明らかにヤギであり、角も生えている。犬に見間違える者はいない。単
に長毛犬のイメージを感じるというだけの話なのだ。

kambing gembrongと呼ばれるこの種のヤギはバリ州カランガスム県が原産で、姿がエキゾ
チックであることから州内各地にも広がったが、今やこのグンブロンヤギは絶滅の危機に
瀕している。グンブロンとはバリ語で毛むくじゃらを意味している。

2003年には72頭いたものが2021年現在では5頭しか残っていないと報告されて
いる。バリ人は昔からこのヤギを食肉にしていただけで、長い毛を加工することは一切し
なかったらしい。その毛を利用したのはなんと、漁民だけだった。

グンブロンヤギの毛を切って釣り針の上にくくりつけておくと、魚が釣り針に寄って来て
針に引っかかったことから、カランガスムの漁民はこぞって同じような使い方をしていた
という話だ。漁民たちはヤギの毛が水中で光るために魚をおびき寄せる効果があるのだと
語っているが、科学的な検証はまだなされていない。


グンブロンヤギの由来についてバリ人が語る物語は、昔バリの貴族がカシミールヤギとト
ルコヤギの贈り物をもらい、それが掛け合わさってできたものだ、という説明になってい
る。しかしヤギ専門家の中には、グンブロンヤギは豆ヤギと同じ種だと言うひともいる。
前者の話は毛の長いカシミールヤギのイメージが生んだ空想なのかもしれない。

グンブロンヤギの数が減ってしまったのは、その毛を利用している漁師たちの間で、オス
ヤギが頻繁に性交すると毛が抜けてしまうという話が広まり、漁師たちが飼育者に繁殖活
動を制限するよう要求した結果だという話すらある。漁猟用に使われるグンブロンヤギの
毛は商品であり、しかも決して安くないのだから、その供給量が減ってさらに値上がりさ
れてはたまらないと漁師たちが思ったのも無理はない。しかし畜産界はその話がまったく
真実でないことを知っており、いまだに昔の話を信じている飼育者に真実を説いて回って
いるありさまだ。

グンブロンヤギが絶滅に向かっている状況の理由として、顔を覆う長い毛がヤギの食餌を
妨げ、栄養不良を招き、早死にしていくためではないかという説もある。昔はカランガス
ム海岸部で漁師が漁猟に使う素材としてグンブロンヤギを飼育する傾向が高かったが、漁
師が子供の学費や通過儀礼あるいは宗教祭事の出費のために育てたヤギを簡単に売り払う
傾向も指摘されていて、それらのさまざまな要因がグンブロンヤギをがんじがらめにして
絶滅に向かわせているということなのかもしれない。

グンブロンとPEを交配させたものも作られていて、ゲッタgettahと名付けられている。
gembrongとettawahを合わせた名称だ。だがしょせん、ゲッタはグンブロンでない。グン
ブロンをグンブロンのまま残すには、グンブロンを貧しい農民や漁民の手に委ねている現
状ではたいしたことはできそうにないだろう。[ 続く ]