「インドネシアのヤギたち(終)」(2021年09月02日)

ランプンでは、PEとオーストラリアから輸入されたボーアboer種を交配させて新種が作
られた。その試みは1986年に北スマトラ州、1989年に南スラウェシ州で行われて
失敗しており、2008年のランプン州が初の成功例になった。サブライsaburaiと名付
けられたこの種はその後着々と頭数を増やして順調に発展している。

サブライの毛色はたいてい白で、ところどころに茶色の部分が混じる。角は耳の後ろに曲
がり、耳は長くて垂れている。体高はオスが65センチ前後、メスは55センチ前後とい
ったところだ。

今のところ、サブライの供給はランプン州が一手に引き受けており、廉くない価格で売買
されている。「だいたい東ジャワからの注文が多いが、かれらはサブライと呼ばずにクロ
スボーアcross boerと呼んでいるので、正式名を呼んで欲しいものだ。」とあるサブライ
生産農家は不満を物語っている。


ヤギを使って競争させるゲームもインドネシアにある。東ジャワ州プロボリンゴやマドゥ
ラでは、ヤギの走り競争が行われている。残念ながら、羊が行っている~ガドゥドンバは
ヤギには無理なようで、~ガドゥカンビンという言葉をインドネシア人が口にしたとして
も、その意味は~ガドゥドンバである可能性が高い。

マドゥラで有名な牛の走り競争はカラパンサピkarapan sapiと呼ばれていて、羊の走り競
争はマドゥラでもプロボリンゴでもカラパンカンビンkarapan kambingと言う。

プロボリンゴで行われているカラパンカンビンはマドゥラのカラパンサピのようなスタイ
ルだ。2頭のヤギをくびきで繋ぎ、ヤギの間にくくりつけられた棒を引きずるような形で
走らせる。カラパンサピの場合は牛の間のそりに人間が乗ってジョッキーを務めるが、ヤ
ギの場合は後ろから人間がついて走る形式になり、ヤギの猛烈なスピードに人間は追いか
けるのがやっとというあり様を見せつけている。

二組が競争して勝敗を決め、勝ち残り方式で決勝戦まで進む。チャンピオンには飼い主に
賞品が与えられる。走り競争に向いているヤギは年齢が3カ月以上で子供を産んだことが
なく、頭が小さく、身体はまっすぐで、前脚の付け根が太く、身体は前傾気味である者だ
そうだ。

ヤギを走らせるこの催しはマドゥラ島と東ジャワ北海岸部および南海岸部で遠い昔から行
われていた伝統行事だったそうで、稲の収穫期・独立記念祝祭・村祭りなどの目玉行事と
して開催されるのが普通だった。

マドゥラのカラパンカンビンはプロボリンゴのものと違って、シングルススタイルで二頭
だけが走る。それでも身体には左右に地面を引きずる棒が付けられる。選手はたいていが
メスで、年齢は4カ月以上一歳半以下の出産経験のない者が出場する。オスが出場しない
のは、集中力に欠けているからだそうだ。つまり、オスは一心不乱にただ走ろうという気
構えを持っていないということらしい。その心根を持つメスヤギは実に、マドゥラ女の特
徴を如実に表している、とカラパンカンビン関係者のマドゥラ男たちは述べている。

マドゥラのヤギ飼育者はカラパン選手用のヤギを特別扱いして飼育する。まるでエリート
そのもので、毎日餌とは別にジャムゥと鶏卵が与えられ、住処は他のヤギと離されて、掃
除の行き届いた小屋が用意される。そのようにして育てられたカラパンヤギの値段は、一
般ヤギが100万ルピア程度だとすれば3千万ルピアの価値を持つ。それがチャンピオン
にでもなれば、億の大台に乗るのである。ヤギたちはインドネシアの農民経済にとって重
要な潤滑油の役割を務めている。[ 完 ]