「カリマンタンのダヤッ料理(7)」(2021年09月02日)

ワディはダヤッ族の各家庭で作られていて、それぞれがわが家の味を持っている。昔、日
本の家庭がそれぞれ漬物を作っていたようなものだろう。パランカラヤ大学農学部が各家
庭のワディの味を調査したことがあった。南カリマンタン州でワディ作りの盛んな三地方
の百家庭を選び、それぞれに5キロの魚を提供していつも行っている方法でワディを作っ
てもらった。その結果、魚の重量に対して15%の量の塩を使ったワディが一番美味しい
ことが判明した。

更にアレンヤシ砂糖の量もいろいろ変化させてみた。砂糖の量を多くして作ったワディは
油で揚げると黒くなり、見た目が食欲をそそらなくなった。アレンヤシ砂糖の適量もやは
り魚の重量に対して15%の量になっていることが明らかになった。ライムの搾り汁は4
%が最適であることが分かった。

ワディをカリマンタン島外で普及させようと考えるビジネスマンが現れたとき、パランカ
ラヤ大学の研究成果が有効利用されることになるだろう。


バンジャルマシンの名物に三角クトゥパッketupat segitigaがある。ただしクトゥパッで
なくロントンlontong segitigaと呼ぶのも一般的になっている。どちらの名称であろうが、
腹に入れば同じ物というところだろうか。

クトゥパッの方はカンダ~ガンKandanganという地名が添えられるケースが多く、バンジャ
ルマシンから125キロ北東に離れた南フルス~ガイ県の県庁所在地カンダ~ガンがその発
祥の地と言われている。

クトゥパッカンダ~ガンはクトゥパッの飯の上から味付けされた濃いココナツミルクの汁
をたっぷりかけ、揚げ魚の切り身を上に乗せて供される。更に家鴨の卵やクルプッが添え
られたりする。ジャワ島でクトゥパッはイドゥルフィトリの食べ物とされていて、シーズ
ンから外れると口にする機会がほとんどなくなってしまうものだが、南カリマンタンでも
バリ島でもクトゥパッは日常の食品になっている。ところが、南カリマンタンでは、クト
ゥパッの飯が他地方の飯と異なっているのである。

たいていどこの地方でもクトゥパッにはそれぞれの地元で美味しいと言われているコメが
使われる。どこへ行ってもコメはインドネシアでpulenと形容されるもっちりフワフワの
コメが使われ、クトゥパッの容器の形に成型された飯が皿の上でもその形を維持している
ものだ。ところがクトゥパッカンダ~ガンはパサパサのシアムsiam米が使われているので
ある。どうしてそんなことが行われているのか。カンダ~ガンのひとびとが意地悪をして
いるわけでは決してない。南カリマンタンのひとびとはperaと呼ばれるパサパサのコメの
方を美味しいと感じているからだ。

この事実を視野に入れるなら、KBBIが定義付けているpulen/pulanの語義empuk dan 
enakに疑問が生じることになる。南カリマンタン人はプルンな飯をtidak enakと感じてい
るのだから、KBBIのenakという定義が適用できない。

多分プルンとは元々もっちりフワフワのempukな飯という意味しかなかったのかもしれな
い。その性質に人間の嗜好が関わって、ジャワ人たちがプルンが美味いと言い出したこと
からプルンに美味いの意味が後から添えられたのではあるまいか。もちろんジャワ人はプ
ルンを美味いという意味で使うケースがたくさんあるのだろうが、美味いという語義をプ
ルンの意味として固定してしまうと、南カリマンタン人との会話で行き違いが起こる可能
性が出現するようにわたしには思える。官選辞書にも勇み足がありそうだ。[ 続く ]